「29」会社撮影(後編)

その後時間のある後輩2人と東京タワーへ。風景撮り。
東京タワーなんていつでも来れるから「行こう」と思ったためしがない。
東京に住んでいる人たちはたいがいそう。
地方から出てきた人たちを案内するのでもない限り。
普段からよく訪れるって人はめったにいない。
会社からすぐ目の前に見えさえするのに
最近行ったという話を誰かがしてるのを聞いたことがない。
そんなわけで会社から歩いて行ってみるのは今日が初めて。


竹芝から浜松町へ。
「東京タワーの向こうに見えるの、六本木ヒルズだよな」
「えー?そんな近くなわけないでしょう」
「や、歩いていける距離っぽいよ。直線だと」
そんな話をする。
六本木の位置ってのがあやふやな人が僕を含めて周りには多い。


増上寺の門をくぐりぬけて中を歩く。そこからさらに歩く。
すぐ目の前に東京タワーが聳え立つようになる。たけー。
真下から見上げるととんでもなく高く見える。
「でも富士山ってこの10倍近い高さがあるんだよなあ。それもすごいよなあ」
という変な感想を抱く。


第1展望台へ。すぐさま特別展望台へ。
土曜ってこともあって混雑している。
すぐにはエレベータに乗れない。しばらく待たされる。
昔学生時代に撮った映画のうちの1つには
東京タワーのこのエレベーターから捉えた上昇する風景を利用したものがあった。
第1展望台から特別展望台まで5回ぐらい往復していくつかの窓から撮影を行った。
毎回入場券を買ったんだけど、最後の方では受付のお姉さんに
「チケット持ってますか?」とかなり怪しまれた。そんなことを思い出す。


わざわざ撮影のために来たはずなのに、こんなときに限ってバッテリーが切れてしまう。
予備のも会社に置いてきたまま。「しまった!」という感じ。「ちきしょー」と罵りたくなる。
仕方なく今この時間は後輩たちと純粋に観光客として風景を眺めることとする。


特別展望台はとてつもなく狭く、
帰りのエレベーターを待つ人たちの列が内側の壁沿いに一周してしまっていた。
「混雑してきたので場合によっては入場制限を行います」なんてアナウンスが流れる。
150mの高さの第一展望台と較べて、250mの特別展望台の方の眺めは確かにいい。
でも狭苦しくて居心地はよくない。第一展望台の方が居心地いい。
すぐにも帰りの列に並ぶ。


第一展望台をブラブラと歩く。
「LOOK DOWN」と掲示のある箇所がいくつかあって、
床が四角く切り取られてガラス張りになっている。
足元に広がる鉄骨。高所恐怖症でもないのに「ひえ〜」と心の中で悲鳴を上げる。
ジェットコースターはなんぼ乗っても怖くないのに、こういうのって怖い。
もしこのガラスが消えて無くなったら・・・、みたいなやつ。


展望台を降りると3階の蝋人形館へ。
噂にはよく聞くんだけど入ったのはこれが初めて。
後輩は「微妙ですねー」という感想を漏らす。僕もそう思う。
うまいんだか下手なんだか、それ以前になぜ蝋人形なのか?
マリリン・モンローオードリー・ヘップバーンエリザベス・テーラーらと並んで
ジュリア・ロバーツはまだしもシャロン・ストーンの人形が並び、
さらに「猿の惑星」のコーネリアスが一緒に立っているという不思議さ。
世界平和が今テーマのようで、ガンジーマザーテレサの人形があるのはいいのであるが、
チャーチル毛沢東ホー・チ・ミンもあったりして結局は単なる世界の大物政治家の羅列。
なおかつ間に王貞治長嶋茂雄の人形(これらが最も似ていない)が挟まるというミスマッチ。


ジョージ・ブッシュ大統領はなぜか非常にそっくりだった。
ビートルズの像も割とよく似ていた。
特にジョージの虚無を見ているような目が再現されている辺り。
キリストの最後の晩餐まで来ると似てるんだかなんなんだかよくわからなくなる。
大理石でよく彫像として作成され、
絵画のモチーフとなるビーナスの蝋人形ってなんか意味があるのだろうか?
そして「???」の最たるものとして最後に控えているのが
70年代のロックミュージシャンの蝋人形たち。
これはリッチー・ブラックモアジミー・ペイジロバート・フリップといった
有名人ならまだわかるが、キース・エマーソンフランク・ザッパ
イアン・アンダーソン(片足を曲げてフルートを吹いていた)は百歩譲ってまだありえるが、
マニュエル・ゲッチングクラウス・シュルツといった
ジャーマンプログレまで来てしまうとわかんなくて当たり前。
アジテーション・フリーの中心人物(僕ですら知らんかった)なんてのもある。
趣味性バリバリ全開。
あきれるのを通り越して「はー、すごいもんだ」と感心したくなってくる。
これって誰の趣味なんだろうな。館長の趣味なのか製作者の趣味なのか。
日本の各地に存在する「秘宝館」の入門編としてはなかなかのもの。


出口を出るとジャーマンプログレを中心としたCDショップが。
洋楽フリークの極北というか終着駅というか。
惹かれてしまう僕ってなんなのだろう・・・。


蝋人形ってことで言えば、1階のエレベーター付近にわんさかいる
コテコテに白塗りのエレベーター嬢の方がよっぽど蝋人形っぽかった。


東京タワーを出ると後輩と別れて、会社に戻る。
バッテリーを付け替えてまた撮影に戻る。
後はもう1人きりで風景ショットだけ。
まずはゆりかもめに乗って窓の外を流れる光景をガラスにレンズをくっつけんばかりにして。
学生時代の映画にやはり同様にゆりかもめから見える映像を使ったものがあった。
先ほどの東京タワーの映像といい、今回の作品はほんと過去の作品の作り直ししている場面が多い。


芝浦ふ頭からお台場海浜公園までの長い区間を撮り終えると
いったん車両から降り、改札を出てすぐ切符を買ってまた引き返す。


竹芝駅に戻ってきたのが3時ごろ。
またテクテクと歩いて東京タワーへ。
特別展望台に上がるための行列はもうとんでもない長さになっていて
上に向かうエレベーターのある階から第一展望台のある階までの階段に
人々がずらっと並んでいてこれはもうもしかして1時間待ちじゃきかないぐらいか?
12時ごろ来たときよりも確実に人が増えている。
大盛況。今でも東京タワーは「東京」の観光地として健在なりということか。
六本木ヒルズに客を取られて閑散としているのではないかと思っていた僕が間違い。
第一展望台を何回か回って(カメラ回しながら歩いて)、
展望台/人/風景の絡み具合をカメラに収める。
今日撮ったものの中では最も面白いものが出来上がる。


これでようやく撮影が終了。
会社に戻って帰り支度。


中野で降りてイマナリに機材を返しに行く。
休憩に入ったイマナリと中野ブロードウェイの建物の裏で少し話をする。


中野ブロードウェイの近くに池袋の餃子スタジアムにあった
チャウチャウ餃子の店「餃々」がの支店できていて、そこで夕食を食べる。
食べ終えた時点でまだ6時過ぎ。
いつもの休みの日の2日分を1日で過ごしたような濃密感。
長い一日だった。疲れた・・・。