If they move, kill ’em

「触ってもいいっすか」
「いいけど指紋つけんなよ。先に手袋してからにしろ」
「いーなーいーなーセンパイはー。俺ばっかりモデルガンでアホらしいじゃないすか」
青い服の背の高い男は白い服の背の低い方に銃口を向けた。
白い服の男は鏡の前に立って、緑色のスキーマスクをかぶった。
目や口以外はすっぽりと隠されている。
「動くな。撃つぞ」
「オマエもかぶってみなよ」東急ハンズの袋の中から取り出して放り投げる。
「ジェイソンみたいなああいうのなかったすかね」
テーブルの上に拳銃を置く。
空になった酎ハイの缶が転がってカップ麺の容器はくしゃくしゃになった煙草のケース。
床にはモデルガンの箱。「スミス&ウエッソン 38口径」と書かれている。
「実弾だとやっぱ撃たれたら死ぬんすかね」
「場所が悪いと死ぬんじゃねえか」
衛星放送のチャンネルを変える。
裸の女性が3人出てきてそれぞれの体にまとわりつきながら悶えている。
音量を上げてその喘ぎ声を大きくする。
「2つ並べるとどっちが本物かわかんねえや」
「バカ。だからいいんだろう。ビビらせるんには一丁ありゃいいんだよ」
青い服の男はテレビの画面を見つめながら、
「店にかわいい子がいたらどうします?それでも撃っちゃう?」
「向こうがおとなしかったら撃たねえよ」
「あーAVみたいなことができねえかな。銃で脅して。興奮しないっすかそういうの?」
「そんなことしてる暇あると思ってんのか?」
白い服の男がテレビを消す。部屋に隅にあったウイスキーのボトルを持ち上げて一口飲む。
「俺にも」
ボトルが手渡される。
「センパイって実弾撃ったことあるんでしょ?」
「グアムでだけどな。組の連中と旅行行った時」煙草を取り出して火をつける。
「気持ちよかったっすか?」
「思ったほど気持ちよくはねえな」
「人間じゃなかったからでしょ?
 ベトナムだか中国だかに犬とか猫を撃たせてくれるところがあるらしいっすね」
「犬じゃしょうがねえな」
「それにしても昔はハブリがよかったんすねー。グアムなんか行っちゃたりしてさあ」
2人は無言になってしばらく煙草を吸う。やがてそれを揉み消す。
白い服の男トカレフを黒い書類鞄の中に入れる。
書類鞄の中には発泡スチロールの箱が入っていて、実弾の束が詰められている。
青い服の男がモデルガンをジーパンの腰の部分に突っ込む。
「昔の刑事ドラマってこんなふうにしてましたよねえ」
白い服の男がアパートの電気を消す。
青い服の男が靴を履く。かかとをつぶしている。
入り口脇の台所に貼られたカレンダーにはいくつかの○と×がマジックペンで書かれている。
カレンダーの写真の女性はビキニを着て生ビールの入ったジョッキを持って笑っている。
プールサイドの揺らめく水面が白く光を反射している。その全てが黄色く変色してしまっている。
2人はアパートの下に停めておいた車に乗り込んだ。
ラジオをつけるとプロ野球の中継を探した。8回の裏。
「松井カズオ初球ホームランだったんすよねえ」
車はゆっくりと走り出す。夜の商店街をぬける。どこもかしこもシャッターがしまっている。
あるいはスナックのネオンサインが赤にピンクに瞬いているか。
大学生風情の髪を茶色く染めた若者たちが酒に酔ってるのか大声で笑いながらヨタヨタと歩いている。
「ああいうの見ると撃ち殺したくなりますよ」
助手席の青い服の男がモデルガンを引き抜こうとするのを
白い服の男が運転しながら左手で制した。
「よせ。外では」
「モデルガンっすよ。たかが」
「いいからおとなしくしてろ」
青い服の男がふてくされたような表情をつくる。その後座席を思いっきり後ろに倒す。
「あー撃ちてーなー。撃ちまくりてーなー」
白い服の男は何も言わない。黙って運転し続けている。
青い服の男がぐいっと首をひねる。
「ねえ、センパイ。どうしてコンビニなんてケチなとこやるんすか? 
 どうせならいっそこのこと銀行やらないっすか?銀行」
青い服の男は口を開けて変に歪めた状態でそのままずっと白い服の男を見つめる。
白い服の男は何も言わない。
青い服の男はやがて諦めて反対方向を向く。窓の外を流れる風景を眺める。
「もうすぐで着くぞ」
「ほーい」
青い服の男が座席を元に戻す。
「いいか、朝言ったこと繰り返すがオマエは店に入ったら
 何も言わずカウンターの店員にその黒いやつを向けろ。絶対何も言うな。」
「日本語が言えない連中と思わせるんでしょ?もう何度も何度も聞きましたよ」
車を路肩に停めると2人は路上に出る。
そっと閉めたはずなのにバタンと大きな音が鳴り響く。
2人は物陰に隠れてスキーマスクをかぶる。
白い服の男が言う。「オマエ変な顔してんな」
「センパイこそ」
「ハハハ」
「ハハハ」
じゃあ行くぞ、白い服の男はそう言うと表通りに出る。青い服の男が後に続く。
目当てとするコンビニまでのわずかな距離を無言で歩く。
青い服の男は腰のモデルガンに手を当てる。
コンビニの照明がまぶしい光を放っている。
足早に通り過ぎる初老の女性とすれ違う。
地面に座ってアイスを食べている女子中学生の3人が「何あれ?」という視線を送る。
ドアの前に立つ。自動ドアがゆっくりとしたスピードで開く。
2人は店の中に入った。