会社の床に寝っ転がって

金曜の夜、部門の送別会に出る。(送別会なのになぜか焼肉屋で開催)
2次会はカラオケ。
気が付くと0時を過ぎて終電に微妙な時間。後輩たちと浜松長の駅に急ぐ。
山手線のホームで上野・東京方面の電車を待っていると
一足先に品川・渋谷方面へと別れた後輩から
「終電間に合わなかった。歩く」との連絡が別な後輩の携帯に入る。
嫌な予感がする。「やばいかもね」と後輩たちが言う。
東京駅で1人下りて中央線のホームへ。
エスカレーターが動かないので「もしや」と思ったら終電が行った後だった。
表示板には「***」だったか「−−−」しか映っていなかった。
中年の男性やOLなど酔っ払った男女が数人、
僕同様「あーやっちゃった」という顔をしてホームをフラフラと歩いていた。
さてどうするか。とりあえず山手線のホームへ。
ぐるっと新宿まで行ってそこからタクシーか歩くってんでもまあいいかと行ってみたら
本日の最終ってやつで池袋まで。
慌てて階段を駆け下りて駆け上って逆方向へ。電車は今にもドアを閉めて走り出しそうな気配。
よくわからなくなってとりあえず乗り込む。電車が走り出す。
「はー・・・」とため息をつく。酒のせいもあって頭の中がグルグル回ってる。酸素の足りない感じ。
他の人たちはどうしただろうか。
先輩に電話すると何人かでタクシーで門前仲町へ移っていた。
わざわざそこに合流する気も起きず。浜松町で下りて会社に向かう。


社員証をかざしてセキュリティを解除すると、通路を歩きエレベーターに乗って5階へ。
1時を過ぎているのにまだ残って仕事している人たちがいる。
「どうしたの?」と聞かれて「いやあ終電逃しちゃって・・・」と照れ笑いをする。
残っている人たちは明日(つまり、土曜である今日)のための資料を作成していた。
恐らく日曜も出てきて、週明けは大事なミーティングを顧客と行う。
リーダー格の先輩は「ゼイタク言わない。半日でいいから休みくれ」と自嘲気味に笑う。
同じ部門にいて同じプロジェクトに所属していながら
片や限界まで仕事していて、片や僕は飲み会に出て散々飲んだ後醜態を晒している。
これでいいんだろうか?と思う。
結局は「これでいい」「どうしようもない」という結論に達する。
申し訳ないと思いつつも、そこに加わって手伝おうとしたら僕もまた悲惨な目に遭う。
わけのわかんないことになって、追い詰められ、
去年の秋頃のようにノイローゼの鳥羽口に立たされてしまう・・・。
そんな理由を自分で自分に与えて、「だから、いいんだ」と思うことにする。
うまく立ち回ったほうがいい。自分の身を守ることを最優先に考える。
ずるいと言えばずるい。
そう思う僕は大人なのか子供なのか。


PCを立ち上げて、一応仕事を始める。表の集計のようなことをする。簡単な作業。
残って仕事をしていた他の人たちが帰ってしまうと(タクシーの経路の話をしていた)
酔いと眠気でどうしようもなくなっていた僕は「もういいや」と思う。
仕事なんかヤメヤメ!
どうでもよくなっていた僕は会社の床に横たわる。
カジュアルフライデーだったためジーパンにTシャツ。
絨毯の上に身を投げ出した瞬間、眠り込んでしまう。


目が覚める。朝の5時。電車乗って帰らなきゃ、と思う。
Tシャツ1枚で空調の聞いたオフィスで寝っ転がっていたため、
風邪の引き始めのように喉が痛く、熱っぽい。
絨毯が硬かったため体のあちこちが痛い。
起き上がるのがおっくうになって、そのまま横たわる。
天井を眺める。
何秒だったのか何分だったのかわからないが、長いこと天井を見つめた。
入社して6年目になるが、
会社の天井というものをこれほどまでマジマジと眺めたことってこれまでなかった。
いろんなことについて、奇妙な感じがした。
僕は誰でここはどこなのだろうと思った。
頭の中では嫌ってほどわかっているのに、そんなことを思った。


心の中で感じていた、天井を見つめていた間の長い長い時間は、
恐らく実際にはそんなたいしたものではなかったのだと思う。
「よっこいしょ」と僕は立ち上がり、フロアの電気を消して回って
エレベーターに乗って下に下りて、会社を出た。
竹芝桟橋には大島へと釣りに出かける人たちが集まり始め、
会社の近くのクラブっぽい場所の近くを通ると
遊び人風情のスーツ姿の男性たちや豪華に着飾った女性たちが
浜松町の駅へと向かうところだった。
男性2人、女性2人、男女のカップル、大勢のグループ。
僕は彼ら/彼女たちの間を歩いた。
昨日までの暖かさが嘘のようで、肌寒い空気の中を歩いた。
浜松町の駅へと向かっているのだから目の前には東京タワーが立っていた。
何の表情もなく疲れきった東京タワーがひっそりと立っていた。
1日はこれから終わるのか始まるのか。
そんなことを考えた。