Sonic Youth 「Silver Rockets Kool Things」

去年発売されたものの買いそびれているうちにどこへ行っても見当たらなくなった
Sonic Youth のDVD「Silver Rockets Kool Things」を会社の先輩から貸してもらう。
登場人物の問題で店頭から回収されてしまったのだそうだ。
今となっては幻の映像作品。
発売してすぐの時に買っておくんだった。
お金の持ち合わせがそのときなくてもカードで買っとくべきだった。
去年最大の買い逃し系後悔。


現役で活動しているバンド・ミュージシャンの中では誰が一番好きですか?
と聞かれたとしたら僕はあれこれ迷った挙句、Sonic Youth の名前を挙げるだろう。
日々聞いてるってことはなくて、新作が出ても1度か2度しか聞かない。
それでも好き。
今日もこの地球のどこかでバンドとしてあるいはソロとして
なんらかの形で彼らは音楽に携わっているのだろうと思うだけで満足してしまう。


高校時代に「GOO」を買って、衝撃を受ける。
当時は小遣いのほぼ全てをCDレンタルにつぎ込んでいたのであるが、
青森市内のどこを回っても(当時7・8件の店を定期的に回っていた)
見当たらず、なけなしのお金をはたいて買った1枚。
1曲目の「Dirty Boots」のぶっ壊れたかっこよさに
当時16歳で津軽弁しかしゃべれなかったオカムラ少年は完全にノックアウト。
上京後今は無き新宿の Liquid Room にライブを見に行って感涙。
ライブ前にフラフラと1人歌舞伎町を歩いていた
ドラムのスティーヴ・シェリーを捕まえてもらったサインは孫の代まで家宝である。
(これがサーストンかキムだったら未来永劫に、ってとこだろう)
上京したばかりの頃、池袋のHMVで1枚目のアルバムと
「Walls Have Ears」を見かけたのに、お金がなくて買えなかった。
その後見たことが無い。これはこれまでの人生で買い逃したうち、最大の後悔。


もともとはドイツのテレビ番組なのだそうだ。
DVDのサブタイトルには「20 Years of Sonic Youth」とあって、
その名の通りバンドのこれまでの歴史を追ったドキュメンタリーということになる。
ライブ映像とビデオクリップと、
バンドのメンバーと友人たちによるインタビューで構成されている。
ライブの映像はもちろん、静かに、あるいは熱く、
これでもかこれでもかとノイズ−混沌を生み出そうとする
メンバーたちのとりつかれたような姿がメイン。
キム・ゴードン、DJオリーヴ、イクエ・モリ、ジム・オルークによるライブ、
サーストン・ムーア、ジム・オルークの2人だけの即興のライブもあり。


1977年のニューヨーク・パンク勃発に影響を受ける。
その後グレン・ブランカの元でサーストン・ムーアとリー・ラナルドが出会い、バンドを結成。
インディーで活動を続けるうちに若い世代のバンドたちとの交流が深まる。
メジャーとの契約。(その頃同じレーベルにて Nirvana がデビュー。時代の寵児となる)
その後もインディー精神を失うことなく独自のスタンスを貫くことで90年代を生き抜き、
後進たちから最も尊敬を受けるバンドへ。
ファンならば誰もが知っている歴史をそのままなぞっていく。
特に目新しい事実は出てこない。実はこういうことだったという裏話も無い。
あくまで史実に忠実に、淡々と語られる。
その合間合間に、撮影された年(2000年)にニューヨークで行われたライブや、
キム・ゴードンがセレクションを行った個展(ソフィア・コッポラポートレートを出展)、
詳細はよくわからないんだけど
ニューヨークのアンダーグラウンドロックの歴史を辿る?小規模の展覧会の模様、
といった映像が挟まる。


よく出てくるアルバムは
「Bad Moon Rising」「Daydream Namtion」「Goo」「Dirty」
「A Thousand Leaves」「nyc Ghosts & Flowers」
といったいわゆる代表作。
80年代半ばの「Sister」「EVOL」あるいは90年代半ばの
「Experimental Jet Set …」「Washing Machine」については言及すらされない。
歴史的な評価はそういうことになっているのか、と思う。


興味深いのは仲間のミュージシャンの発言。
メンバーたちの発言よりも客観的に Sonic Youth の特質を言い表していたように思う。
だいたいこういうようなことを言っていた。


ブリクサ・バーゲルド(Einsturzende Neubauten)
「ギターは嫌いだが、Sonic Youth だけは例外だ。
 彼らは曲の合間にチューニングをしない。1曲ごとにギターを用意する。
 しかもそれらのギターは箱の中に放り込んでて、安くて古いボロボロのギターだ」
(続けてリー・ラナルドとサーストン・ムーアが交互に語る。
「その曲に合わせてギターを長いことかけて調整している、代えのギターというものは無い」
 その後彼らは1999年のギター盗難事件とその落胆について話し出す・・・)


□ジュリー・カフリッツ(Pussy Galore , Free Kitten)
「彼らはアートとパンクロックの融合を初めてやってのけたのよ」


ジム・オルーク(Gaster Del Sol を経て、現在は Sonic Youth の準メンバー)
「彼らは様々な音楽からただ影響を受けるだけでなく、影響を受けたという事実を認めている。
 そしてきっちりその貸しを返している。
 だから Sonic Youth が好きならこの音楽も好きだろ?と人に薦めることができる」


□グレン・ブランカ(NYの実験音楽家。ギターオーケストレーションのグループを当時率いていた)
「リーのステージでのアクションはすごかった。演奏もきちんとしていた。
 サーストンは募集の広告を見て来たんだが、素晴らしいの一語だった。
 ロックの歴史についてもアカデミックに学習していた」


面白かったのはリー・ラナルドが1989年にロシアに公演しに行ったときのことを語るエピソード。
「『Daydream Nation』の海賊版が無いか探したら、あったのがこれだ。
 (壁に飾られたジャケットを指差す。恐らくロシア語で『Daydream Nation』と書かれている)
 2枚組みのアルバムが勝手に選曲されて1枚になっていて、ジャケットの写真も
(ドイツの画家ゲルハルト・リヒターによる有名なロウソクを題材にしたシリーズではなく)
 素人がその辺で適当に撮影したロウソクの写真になってた」


総じて Sonic Youth マニアが資料として持っておくべきもの。
あくまでドキュメンタリーなのでライブもビデオクリップも途中で途切れてしまう。
普通のロックファンなら物足りないのではないか。
僕としては持ってないことを残念に思う。
これからも中古で売られてないか探すことになるんだろうな。


最後に、データとして。


【ライブで演奏する曲】
「MOTE」
「NYC Gohsts & Flowes」
※その他インプロヴィゼーションも多々あり。


【登場するクリップ】
「Teenage Riot」
「Cinderella's Big Score」
「Macbeth」
「Sugar Kane」
「Death Valley '69」
「Silver Rocket」
「Providence」
Kool Thing」
「Dirty Boots」
「My Friend Goo」
「Mildred Pierce」
「Sunday」


それにしてもサーストン・ムーアはもちろんのこと、
キム・ゴードンはかっこいいねえ。クール。
パティ・スミス以後、
80年代以後の女性のロック系ミュージシャンの中で一番かっこいいんじゃないかな。