言い訳論

うちのプロジェクトでは毎朝9時から朝礼を行っている。(入社以来初めて)
それまで9時半や10時にのんびり来ていた人たちも9時に来るようになった。
ちょうど9時に間に合わず2・3分遅れてきた人たちはそーっと自分の席へと向かう。


朝礼に間に合わなかった人たちはさらにそーっと、忍びこむようにフロアを歩く。
近くの席の女の子が9時30分頃そんなふうにこっそり席に座ったので
「遅刻だろー」と僕は指摘する。
僕としては彼女が遅刻してこようがなんだろうがどうでもいいのであるが、
そのあまりのこっそりさ加減(「気付かれないように気付かれないように・・・」)が
絶妙だったので指摘せずにはいられなかった。


「えーだってー」と彼女は言う。
「だってなんだよ?」
「犬がー」
「犬がなんだよ?」
「えーと、帰ってきたんです」
「?」
「半年前に家出した犬がー、子供を3匹連れて帰ってきたんですー。
 だからもー私としてはー」
「なんだそりゃ」
「アハハハー、こんな言い訳ダメですかねー」


ダメに決まっとる。
そもそもの是非はともかくとして、言い訳の内容が。
犬の帰還というイベントがそれほどまで心を動かされるものであるならば、
30分で切り上げて出社したというのはありえない。
仮病を使ってでも1日休んで再会した犬との交流を慈しむのが人間というものである。
よって言い訳にリアリティーがない。
彼女には悪いが、これは言い訳としては二流ないしは三流と言わざるをえない。
30分遅刻してきたのであるならば、
ジャスト30分の経過を必要とする出来事をでっちあげなくてはならない。
老人に道を聞かれて案内してました、の方がまだいい。


じゃあ僕ならどう言い訳するか。
本来ならばそこへ話が進むべきなのであるが、
僕としては「これぞ一流の例」というのを示すつもりはない。僕ならこう答える。
「あー遅刻ですか?そりゃすいませんねえ。アハハハハ」で終わり。
遅刻したという事実だけを認めて後は適当に流す。小細工のような言い訳はしない。


社会人になって分かったことであるが、仕事のできる人は言い訳なんて聞いてない。
何か問題があったときに聞きたいのはだいたい以下のようなこと。
・何が起こったのか
・何が原因だったのか(客観的な事象として)
・どう対処するか、あるいはしたのか
・再発しないためにはどうするか


喫煙ルームで休憩してるのでもない限り個人的な都合を話したところでジャッジの基準とならない。


そんなわけで必要とされるのは物事を客観的に捉え報告するための冷静さとなる。
求められるのはあくまで現実性。


・30分遅刻しました
・昨日夜遅かったので寝坊しました
・すぐ家を出るようにしました
・夜更かししません(あるいは、目覚し時計を買い換えます)


会社ならこんなんでいい。
まあ、いちいちこんなこと報告されてもうざったいだけだが。


表向きの話はこんなもんだとして、裏向きとして必要なのは「開き直り」だよな。
「遅れてきたぞ、文句あるか!」ぐらいの。
「30分?細かいことこだわんなよ」とか。
要するに居直ったものの勝ち。


これまた社会に出て分かったことであるが、世の中キレたもん勝ち。(このこと前にも書いたな)
キレるという行為のタイミングとパフォーマンスをきれいにコントロールできる人間は
かなり世渡りがうまくなる。出世する。
コントロール不能なんだけどそれなりに理不尽ではなくて、
周りに適度な恐怖感を与えられる人はさらに出世すると思う。


新入社員がそろそろ配属される頃なので、以上のようなことを考えた。


今の僕が新社会人に対して送る言葉としては、
「言い訳することを覚えたら、ろくな大人にならないよ」