悲しみに満ちた世界

会社の帰りにコンビニに立ち寄る。
平日にしては珍しく缶ビールをレジに持っていく。
隣のレジでは髪を金髪にした10代の若者が焼酎か何かの瓶をカウンターに置いて
ビール券を見せる。「これで」
店員が言う。
「差額が113円となりますが、当店ではお釣りが出ませんが、よろしいですか」


なんでだよ?


スーパーでは出たぞ?
・・・当店ではそうなってまして。


なんで出ねえんだよ?
なんでだよ?言えよ。わけわかんねえよ。


コンビニの中がシーンと静まり返る。
天井に取り付けられたモニターからの芸能人の笑い声だけが聞こえる。


僕と向かい合っていた店員はうつむいたまま
何事もなかったかのように僕に小銭とレシートを渡す。
僕は受け取る。缶ビールの入ったビニール袋を掴む。
僕は店を出る。


夜道を歩いていると目の前を背の低いおばさんがゆっくりと歩いている。
泣いているようだ。
声張り上げて号泣、ではなく、一定の間隔でしゃくりあげるような。
歩き続けるうちに僕はそのおばさんを追い越す。
少しばかり気になるんだけど、一切見ないようにする。
振り返ったり、横目で見たりはしない。
忘れるようにする。そのまま歩き去る。


家に帰るって上着をハンガーにかけ、ネクタイを緩めると
缶ビールをゴクゴクと飲み干す。
テレビではイラクで射殺された日本人2人のことを報道している。
僕はテレビを消す。
シャワーを浴びてロフトに上がり、眠ろうとする。
目をつぶらないでしばらくの間天井を眺める。
真っ白な壁紙を眺める。


この世界は悲しみに満ち溢れている。


もう1度繰り返す。
この世界は悲しみに満ち溢れている。


僕はそのまま通り過ぎるべきなのだろうか。
この世界を。あの暗い夜道を。
それとも。


どうしたらいいのだろう?
僕に何ができるだろう?
そんなこと考えない方がいい?
そんなこと考えない方がいい。


眠れ、眠ってしまえ。
僕は目を閉じる。