「アメリカン・スプレンダー」

土曜日、久々に映画を見にいった。
アメリカン・スプレンダー」これだけはどうしても見ておきたかった。


ここ3ヶ月映画館から足が遠のいていた。
ロッコ行って帰ってきてバタバタしていて、ってのがあったからか。
土日暇がなかったから、というわけではないんだよな。
不思議なもので見に行きだすと続けて何本も見るようになるし、
それが途絶えてしまうとまたずっと見なくなる。
「21g」も「ベジャール、バレエ、リュミエール」も見逃してしまった。残念だ。


場所は六本木ヒルズの中のヴァージン・シネマ。
14日の土曜日は東京湾華火大会の日だったので、
大江戸線に乗っていると行きも帰りも浴衣を着た若い女の子たちで混雑していた。


映画を見る前に青山ブックセンターに行ってみる。閉まっていた。
経営破綻。僕が聞いた話だと本が売れる売れないというのではなくてバブルの頃の・・・、らしい。
新宿 LUMINE の店は昼の営業時間に出版社が差し押さえに来たものの
「頼むからそれはやめてくれ」と店長が涙ながら交渉したというまことしやかな噂をどこかで聞いた。
六本木の店の中は真っ暗で、人がいない。
「ご支援ありがとうございます。8月9月の再開に向けて云々」というような張り紙がしてあった。
確かどこかの書店が買い取って、営業が再開されるはず。

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アメリカン・スプレンダー」は
アメリカの同名アングラ・コミックスの原作者ハービー・ピーカーの半生を綴ったもの。
職業は病院のカルテ整理係、趣味はガレージセールを回ってジャズの珍しいレコードを探すこと、
やることなすことさえなくて妻にも2回逃げられた、そんな小市民以下のダメな男。
それが30代のある日一念発起する。
自分の身の回りのしょうもないことをネタにして
知人であるアングラ・コミックスの第一人者ロバート・クラムに絵を描いてもらい、
マンガに仕立てて自費出版してみたら大評判となる(ただし、あくまで地下で)。
そのシリーズが70年代から今でも続いているというある種のアメリカンドリームの体現者。
一時はテレビのトークショーにも出演する。
なのにコミックスの原作だけでは全然食っていくことができず、
カルテ整理係を昼の仕事として続けていくことを余儀なくされる。
安アパートでのさえなくてしょぼくてみじめったらしい生活のまま50代となり、60代となる。
ファンだという女性が3人目の妻となるが彼女もまた彼と負けず劣らずの変わり者。
だけど彼女なしには生きていけなくて、
日々喧嘩しつつも彼女に支えられることで心の平穏を見出していく。
そんなある日彼の体にガンが見つかり・・・。


現実のハービー・パーカーがナレーションを担当したり、
本人や妻、オタク友達が出てきてドキュメンタリーっぽく当時を回想するシーンがあったり、
なかなか凝ったつくりとなっている。
実写とアニメの融合とか。実験的なのにポップ。
サンダンス映画祭でグランプリ。
監督はまだ若い夫婦で、「あーサンダンス世代だなあ」という感じがした。


前の週、映画サークルの先輩たちと神宮の花火大会に行ったとき、
配給会社に勤めている先輩が「あれは絶対見たほうがいい」とみんなに薦めた。
「あの映画の登場人物ってうちらそのままだ」「そう思うと涙なしには見られない」
学生時代に映画を作っていたのが今や30代。
あの頃の残滓を皆いまだ何かしら引きずって毎日暮らしている。


そうだよなあ。
このままだと僕もああなるんだよなあ。
見ててそんなふうに思った。ほんと身につまされる。
や、あれはあれで1つの大きな成功例であって、
(ちっとも食えてなくても、アングラ・コミックス界のゴッドファーザーだ)
僕は今のところああいうところまでたどり着く気配もない。
30代になっても今ここで書いてるような
ちょこちょことした文章を書いてるんだろうけど、
ぼんやりと何のあてもないまま惰性で続けてそうだ。
昼間はどこかで何かしら仕事をしていて、
そいつに生活のほとんど全てが呑み込まれてしまっている。
夜も土日も疲れきって、そんな自分に適当な理由をつけて、たいしたことはしなくなる。
そしてある日突然何もかも投げ出したくなって、完全に諦める。
立派な「普通の人崩れ」みたいなものになっている。
出世もせず、家も家庭もなく、
相変わらずロックのCDを集めては雑然とした部屋に積み上げている、
そんで顔だけは老けて腹も出てきた、
そういう自分の姿が思い浮かぶ。
このままだと、きっとそうなるだろう。
あーあ。


映画が紆余曲折を経ても結局はハッピーエンドで終わるところがなおさら、
ハービー・ピーカーと僕との距離感を思い知らされることになって
鬱屈した気持ちが高まっていく。
映画としてはもちろんああいう終わり方がいいんだけどね。


なんだか悔しいよ。

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話は変わって、配給会社の先輩は「いい作品なんだけど、人が全然入ってない」と嘆いていた。
単館上映系の作品を六本木のシネコンで流しても客層が合ってないのではないかと。
それもそうだよなあ。


でも初めて六本木のヴァージン・シネマに行ったのであるが
かなりおしゃれな雰囲気で「いいんじゃない?」と僕は思った。
スパイダーマン2」とか「ディープ・ブルー」を上映するような普通のシアターの他に
「アートシアター」ってのがあって、「アメリカン・スプレンダー」はここで上映されることになっていた。
シネコンなんだけどそういうのも1つ用意されているってのはいいもんです。
客が入らないので普通のシアターに戻しますってことにならないことを祈る。

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来週末にはいよいよ「華氏911」が。


フォッグ・オブ・ウォー」というドキュメンタリーも面白そうだ。
サブタイトルに「マクナマラ元国防長官の告白」とある。
アメリカはいかにしてベトナム戦争へと突き進んでいったのか?
これは絶対見に行こう。