日本のロックの名曲ベスト10


ここ1ヶ月ばかり「日本のロックの名曲ベスト10」のことをあれこれ考えていた。
打ち合わせに出たときに「ああ、自分と関係ないなあこの話」と思うと
心の中ではこのことばかり考えていた。顔色1つ変えず、平然として。
(他に暇つぶしによく考えるのは「今、自分に1万円札があるとしたら、何と何と何のCDを買うか?」)


1ヵ月かけて選びぬいたのが以下の10曲。
ただしこれは普遍的な名曲ではなくて、どちらかといえば僕個人の好きな曲ということになる。

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1.RCサクセション 「スローバラード」
なんと言っても簡潔で無駄の無い歌詞にとてつもない情感がこもっているとこですね。
それがあの唄い方で、あの演奏に乗っかって
しみじみとした良さが100倍にも1000倍にもなる。
「悪い予感のかけらもないさ」の1行にそれまでの全てが集約され、
それと同時にその後の2人のはかない未来をも描いてみせるというのはちょっとありえない。
結局のところ歌に出てくる2人はつまらないことで喧嘩して終わってしまったんだろうな。
幸せな瞬間というものは背後に忍び寄る破局があってこそきれいな思い出になる、
そのはかない一瞬が永遠に失われないものとして、ここに閉じ込められている。


2.ユニコーン 「素晴らしい日々」
特にこれといって起伏の無いシンプルな演奏に疲れきった抑揚の無い歌声。
それで歌われるのが事実だけを要約すると「忙しいから会いに行けない」ただそれだけ。
それでいて歌詞の中では諦めきったところでふとした瞬間に出会う
ささやかな奇跡に関して言及されていて、ここ、ものすごく感動する。
普通こんなこと書けない。歌詞にできない。
希望と絶望とが入り混じってどっちでもなくなる、
とてつもなく大きなこともとてつもなく小さなこともその尺度を失ってしまう、
その狭間の中で人生とはどんなものであるか描いてみせる。
そんな奥田民生節の真骨頂ではないか。
ここで描かれていることも
「君に会いに行ける」
というただそれだけのことなんだけれども。


3.The Blue Hearts 「TRAIN-TRAIN」
「リンダ・リンダ」でも「人にやさしく」でも「キスしてほしい」でも
「チェインギャング」でも「青空」でもいいのであるが。
とにかく中学校1年の岡村少年はブルーハーツを聞いて何かに目覚める。
「何か」とは何か?
一言で言ってしまえば青春ってことになるんだろうな。
なので今となってはもう恥ずかしくて聞けない。
カラオケでは必ずブルーハーツだけど。
なお、僕のとってはブルーハーツは3枚目までで、4枚目以後は全然ピンと来なかった。
そこから先僕は洋楽に走っていった。


4.フィッシュマンズ 「Long Season」
アルバム通して全1曲40分というのを選ぶのもどうかと思うが。
でもこれ音楽としてやたらとんでもないんだよな。
その後誰にもたどりつけなかったどこか遠くにある時間と空間をゆるやかに描写して
はかなくてせつない光景が途切れ途切れに続く。
描かれた場所は東京であって、そこは確かに東京なんだけど、
「失われた」とか「幻想の」とかつくことのないリアルな東京なんだけど、どこにもありえない。
つまりここで言う遠さってのは物理的な距離のことを指してるんではなくて
あくまで佐藤伸治の感覚的なものであって、
「僕には東京という街がこんなふうに見えた」ってことなんだよな。
それを淡々と音として定着させたってのはある意味「事件」とすら言っていいと思う。


5.じゃがたら 「都市生活者の夜」
普通の人はこれを聞いたら気持ち悪いといって拒否すると思う。
イントロはまだいいとして、最初のボーカルが入ってきたあたりで。
「なに?この変なメロディー」と。
でもその違和感を乗り越えて全編を聞き通すと見えてくるものってのが確かにあって、
僕の場合とてつもなく大きな感動に包み込まれる。
人間を人間足らしめる根源的なものが描かれている、と言ったら言い過ぎか?
日本語ロック最高の叙情詩であると思う。とにかくスケールの大きさに圧倒される。
その壮大な構想が完璧に音楽化されている。
バックの演奏だけを抜き出したら
「太陽に吠えろ」系の刑事映画の主題歌に使えるんじゃないかと言えば雰囲気は分かってもらえるか。


6.真心ブラザーズ 「素晴らしきこの世界」
フォークで始まって完全にぶちきれて。
「すばらーしーきーこのせかいー!!!」とやけになって繰り返す。最高。
YO-KINGって一見クールな人なのであるが、時々垣間見せる素に戻った時の、
みもふたもない欲望にがんじがらめの自分の開き直った情けなさの
さらけ出し加減とでも言うべきものに「おおお」と深い共感を覚える。
本当にかっこいい人間ならば何事も「バカヤロー」で切り捨てられる。
うらやましい限りである。


7.バービーボーイズ 「女ぎつね on the Run」
KONTAと杏子以外のメンバーたちはどこで何をしているのだろう。
エンリケはバンド活動をしているらしい。小磯はレコード会社に入った。
いまさ(いまみちともたか)はどこで何をしているのか?
地味にスタジオミュージシャンやプロデューサーをしているのだろうか?
20代後半から30代前半に差し掛かった男女関係のあれこれしか絶対歌わせない歌詞と
歌謡ポップスとして完璧なメロディー。今聞くとすごい凝っていたことが分かるギター。
なんでもっと再評価されないのかな。
4枚目の「Listen!」は後世に残る大名盤だと信じて疑わないんだけど、そんなの僕だけかなー。
なお、中学生の頃、「女ぎつね on the Run」というなんともけったいなタイトルを
不思議に思っていたもんだけど
元ネタは Manfred Mann の60年代後半のヒット曲「Fox on the Run」ですね。
ああこれってあの曲のパクリじゃん、っていうギターワークが随所にあり。
Shocking Blue の「Venus」とか。


8.小島麻由美 「ぱぶろっく」
シングルでも何でもなくて、ベスト盤に入っていただけの未発表曲。
なのに心の琴線に触れまくって、超えてはならない一線を何本も踏み越えてしまった。
「女」という生き物がどんなものなのか、どういう情念をもって行動しているか、
非常に分かりやすい形で提示されているように思う。
というか、「男性側が思う女性ってこうだよね」っていうのを
(知ってか知らずか)忠実になぞっているような。
聞いてて僕は非常に切ない気持ちになるんだけど、女性からしてみればどうなんだろう?


9.Flying Kids 「幸せであるように」
Flying Kids と言えば「イカ天」であるが、そういう過去を消し去れたバンドって
Blankey Jet CityLittle Creatures ぐらいか?
(人によっては Begin の名前をあげるかもしれないが)
自分で書いといて「そうだなあ、そういえばイカ天だったんだよなあ」としみじみしてしまった。
驚くべきは、その後のバンドの成長を踏まえた到達点として
この「幸せであるように」が生み出されたのではなくて、
イカ天」登場時の頃からこの歌が彼らにはあったのだということ。
恐るべきアマチュア
Flying Kids って良くも悪くもこの「恐るべきアマチュア」というスタンスを終始変えなかった、
変えられなかったバンドだと思う。
いろんな意味でプロっぽさは十分に発揮されてたんだけど、その根底にあるものとして、
「青さ」「若さ」ってのがいつまでも保たれていた。


10.くるり 「東京」
去年のフジロックで見たとき、
くるり、京都出身です。今、東京に住んでます」というMCとともに始まったことを思い出す。
あの時は僕も「わー!」と盛り上がったなあ。見れてよかった。しみじみとした気持ちになる。
現役のバンドの中では最も優秀な存在だと僕は常日頃思っている。
ワンダーフォーゲル」「ばらの花」も素晴らしいが、やっぱその原点として「東京」だよな。
「東京の街に出てきました。相変わらずわけのわからないこと言ってます」
出だしのこの1行だけで僕は「ああ!」と思いっきり共感させられてしまう。
地方出身者が上京して、不器用な暮らしを送っている。
そんな人ならば誰だった「ああ!」と思うだろう。


次点.スピッツ 「ロビンソン」
岡村靖幸のあの曲も電気グルーヴのあの曲も。イエモンのあの曲もオザケンのあの曲も。
矢野顕子坂本龍一はっぴいえんど。最近では GOING STEADYアジカン
モーニング娘。のあの曲のことも考えた。
全て泣く泣く切り捨ててこの10曲。
なんか1曲だけ拾い上げるとしたら何かと考えてみた時に思い浮かんだのがこの曲。
3分間のポップソングとしての完成度から言えば上にあげた10曲よりも高い。
空も飛べるはず」「ハチミツ」この頃のスピッツは神がかっていた。
僕は妹から薦められて「Crispy!」から聞いたのが最初。
なので一応ブレイク前から聞いてたことになる。ちょっとした自慢。