「あれ」と女の子が言う。長方形のガラス張りの建物を指差している。
水族館へと行きかけていた僕は立ち止まる。「入りたい?」
女の子は「うん」と頷く。
展望台。・・・というよりは大きなオブジェ。
入ってみる。中は緩やかなスロープになっていてその先に階段がある。
ガラス張りの建物の中を歩くというのはなんだか奇妙なものだ。
芝生や木々。青々と茂っている。
スロープの反対側に出ると目の前には海が広がっていた。
橋があってその向こうに砂浜があって。
女の子は「わー」と小さな声で叫ぶ。
「うみ」
「海だね」
波が寄せては返し、子供たちが走り回っている。泳ぐにはまだ早い。
ガラスに顔をくっつけるようにして、女の子が見とれている。
動き出す気配がない。
「先、行ってるよ」と女の子に告げて僕は人差し指を上に向ける。
僕は1人で歩いていく。
上の階へ。ひんやりとした空気が漂っている。静かな音楽が聞こえる。
細長い建物の真ん中は真っ暗な通路になっていて、
頭上に据え付けられたモニタから公園の四季の風物や公園造成の歴史が紹介されていた。
僕はしばらくの間その映像を眺めた。
その先には展望台があって、背もたれのないベンチの1つに僕は腰を下ろした。
その場に居合わせた他の人たち同様、僕もまた何とはなしに海を見つめた。
女の子のいる方に戻っていく。さっきと同じ場所にいた。
「海の側まで行ってみる?」
「行きたい」
スロープをまたテクテクと小刻みな歩幅で降りていく。
外に出る。展望台の中が肌寒かったので日差しの下に立つと急に暑さを感じた。
橋を渡っていく。
「なぎさ橋」という名前が彫られていた。
空から降りてきた鳥が目の前を横切る。
欄干の隙間に止まっていた別な種類の鳥が飛び立つ。
時計の長針のような白い細長い柱が斜めに突き出ている。
橋はこの柱によって吊り上げられているようだ。
格子柄のタイルが敷き詰められていて、その上を白っぽい鳥がチョコチョコと歩く。
船着場があって、「ああ、フェリーに乗るってのもいいな」と思う。
僕の後ろにくっついていた女の子がいつのまにか僕の前を歩いている。
先に立って駆け出す。振り返って僕の方を見る。
僕はそのままゆっくりと歩き続けて、追いつく。
橋を渡りきって渚に降り立つ。
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