sonarsound 2/3

ラボの中では「godibop」が演奏。
日本人3人組でギター・ベース・ドラムを演奏しつつ、
シーケンサー(と思われる)とも同期を取るという
これまでありそうでなかったことをしている。
ところどころいいところがあったのだが(生のドラムがドカドカ叩いているところとか)、
ところどころでしかなかったのですぐにもラボを出た。


ホールに戻って「Hiroshi Watana.be」の続きを見る。
全然さっきとは雰囲気が変わっていて、ハードな展開に。
4つ打ちが乱れ飛んでギーとかゴーとかいうような。
後ろの映像も癒し系ではなくなって抽象的な幾何学模様がチカチカしたものに。
でも全体的に品が良くて破綻がない。
これで踊れるって人はいないだろう。下世話な部分がないから。
後でプログラムの紹介を見たら父は作曲家で母はジャズピアニストと書かれていた。
高校卒業後バークリー音楽院へ。
要するに育ちのいいお坊ちゃまが生活と切り離された「表現」としてやってるような感じ。


ロビーでビールを飲んだ後、またホールに戻ると
フランスから来た「O.LAMM」が大音量のノイズをこれでもかこれでもかと吐き出していた。
ノイズの上にノイズを重ねて、その上にメロディーを乗せて、さらに音を歪めて。
観衆はみな硬直している。
こういうの大好きなので「しまった。最初から見てればよかった」と後悔する。
「おー!いいねえ!!」と思うものの
「でもこれって非常階段や MERZBOW がもう何年も前にやってたことではないか?」とも思う。
ライブで聞く分にはいいが、さすがに家でCDで聞こうとは思わない。


「O.LAMM」が終わってラボに行こうとすると通路は大混雑で身動き取れなくなる。
「ラボから上がってくるお客様を先にお通しします!ご協力ください!」
と(バイトと思われる)スタッフが繰り返し叫んでいる。
ラボはホールの真下にあって階段を下りるだけなのだが、
その階段と前後の通路が小さくて、なおかつ移動ルートが1つしかないからこんなことになる。
なんじゃこりゃ?と思う。
主催者側の会場設営がほんと下手。
日本でも各地でフェスティバルが行われるようになった今、ありえないぐらい手際が悪い。
想像力がないというか経験がない人が「こんな感じかな?」と手探りで仕切ってそう。
sonar が初めてのフェスですなんて人はたぶん少なくて、
例えば WIRE に行ったことがある人が多いんじゃないかと思うんだけど、
誰だってそういう他のフェスと比較するはずなのにね。
来年もここでやるとなったら、誰も2回目は来ないよ。よほど目当てのものがない限り。


少なくともここは音楽をゆったりと楽しむための空間とはなりえていなかった。
何が最悪かって言えば見たいものがなくてどこかで休憩したいとなってもそのための空間がない。
ロビーはあるものの人がたくさんいるし、そもそも座れない。
17時に開演して終わりの23時半まで立ちっぱなし?冗談じゃない。
疲れてラボの片隅で座ってたら会場スタッフに
「他のお客さんが入れなくなるから」と立たされる。
そもそもそのラボにも入場規制がかかって入れなくなる。
僕らはどこにいればいいのか?
常にラボかホールにて何かを見続けて身動き不可な通路でイライラして過ごす?
そもそも入れる客の数を間違えてないか?
たくさん詰め込まないとペイできないというのなら
フェスの運営方法としてそもそもの立脚点が間違っているのではないか。
フジロックと比較するのもなんだけど、
他のフェスと比較してみて初めて、フジってよくできてるなと思った。
時間のすごし方に関する様々な選択肢があってそこへ至るルートもそれなりに用意されているという。


最後に、空間に演出が下手。
薄暗けりゃなんでもいいってもんじゃないし、
おしゃれな椅子や照明を置いてりゃそれで事足りるってこともない。
いかにして心地よく音楽を聞くか、その場を過ごすかということに対する配慮は十分だったか。
主催者側がおしゃれと思っているものを提示/配置すれば満たされると思っていやしないか。


ラボにて「Fonica」を途中から見る。
日本人男女2人組み。
川のせせらぎと共にヒューンという音が重なり、そこにリズムを構成する要素が漂うような、
よく言えばアンビエントな音楽。
2人は iBookの前に座って何かをちょっとずつ動かすだけ。
あれなら僕でもできるんじゃないかと思う。


今日見たのはどれもラップトップ・アーティストとされる人たちで、
必ず銀色のiBookを使っていた。アップルのロゴが暗闇で光るやつ。
このジャンルの作法がどんなもんなのかわからんし、
そもそもそのiBookでどんなソフトが立ち上がっていてどんな画面になっていて
どんな操作をしているのかわからんのだが、
どうしても皆同じ型のiBookなのだろう?揃いも揃って。
デファクトスタンダードでこれ以外ありえないのか、
それとも主催者側からこのiBookを今日は使ってくれと渡されたのか。
「今日流す音楽のファイルをデスクトップに貼り付けておいてください」と指示されて
アイコンをクリックするだけで40分分の音楽が自動再生されるようになっているとか。


次に出てきた「Opiate」を見てその思いを強くする。デンマーク出身。
Bjork の「vespatine」に曲が採用されたことで話題の人のようであるが、
iBook1台を前にしてほとんど動かず。右手でつまみをいじって微調整するだけ。
こういうアーティストたちのライブってなんなのだろう?
その場でしなきゃならない作業ってなにかあるのだろうか?
実際に鍵盤を弾いて音を出したときに弾き間違うぐらいなら
最初から全てプログラミングされてる方がいいという発想で、
何もしなくなるのが自然の流れとなるのではないかと僕は思った。
(実際、細野晴臣はこういうライブにてラップトップを前にして腕組みをしていたという)


動作に乏しいせいか、ホールでは必ず後ろのスクリーンにVJによる演奏が伴っている。
目の前にいる本人以外に見るものもないってことか。
それぐらいならiBookのモニタをその場で撮影してスクリーンに映し出すってことをしたらいいのに。
それならライブだ。
ライブを見に来たのにそのアーティストの手元が常に見えないってのはいただけなくないですか?


「Opiate」が始まってすぐ外に出る。
今日の過ごし方はほんとザッピング。
ホールに戻って SKETCH SHOW に備える。
後からホールに移ろうとしても人が押し寄せて
入れなくなるんじゃないかってのが不安になって早めに。


次は「Schneider TM」シュナイダーだけあってドイツの人。
ちょっとだけ見た「O.LAMM」以外ハズレだったのがここからようやく当たりに。
3人編成。ラップトップ担当と、シンセドラム担当と、シュナイダー本人。
3人とも白衣を着てマッドサイエンティスト的風貌。
ラップトップ担当が音の要のようで、シンセドラム担当ははしゃいで踊ってばかり(これがいい)。
ヴォーカルのシュナイダーはギター(竹竿のように細い)を弾いたりハーモニカのソロもあった。
コーラス入りのポップな曲で始まって、
終わりの方では The Smiths「There is a light that never goes out」のカバーも披露。
ポップなのにノイズまみれになる局面もあり、これは思わぬ拾い物。
演奏力のある(というか歌える) New Order って感じだった。


その次は「AOKI takamasa」と「Yoshihiro HANNO」
ステージ上にはマイクが何台も設置され、ラップトップは4台、ウッドベースまで置かれる。
何が始まるかと思ったら最初は「AOKI takamasa」がたった一人で出てきてプレイ。
始まる前には確か「まかせたぜ!!」だったか、威勢のいい野次が客席からあがった。
F1レースから録ったと思われる走行音に始まって、後はもうリズムと音の饗宴。
僕にとってはこの人が今日のベストアクトだった。
これまで見てきたラップトップの人たちとやってることは基本的に何も変わらないはずなのに、
なんだか音の漲り方が違った。素材としての音の選び方、その組み合わせ方。
強力な意思の力を感じた。
他の人たちがクールに必要最小限の動作しか見せようとしないのに
彼は自分が導くリズムに合わせてコブシを振ったり、
ブレイクが決まると両腕を上げて喜火をアピールしたり、とても好感が持てた。人間的というか。
この人の音は聞くに値すると思った。CDを探して買おう。


続いて「Yoshihiro HANNO」
この辺のジャンルに詳しくない僕ですらその名前を聞いたことある。
ラップトップに女性ヴォーカル2人、ソプラノサックス、
ウッドベース(もしくはエレキの5弦ベース)という構成がそもそも他の出演者たちと一線を画す。
一言で言うとジャジー
ラップトップ・ミュージックの次の次元に到達したとまでは思わないが、
他のジャンルの音楽の意匠をまとえるってことは音楽の1ジャンルとして成熟したわけであって、
「こんなことできるってすごいなあ」と素直に感心する。
なお、半野喜弘はステージ前方に出てきてマイクを握ってラップまで披露した。
これは完全に蛇足だった。