sonarsound 3/3

ここまで来て最後にいよいよ、再結成 YMO もとい、
SKETCH SHOW + RYUICHI SAKAMOTO = Human Audio Sponge」の出番。
前のが10時に終わって、機材のセッティングが済んでも
タイムテーブル通り10時半まで登場せず。
ホールの中はギュウギュウ詰め。
「早くやれよ、バカヤロウ」みたいなことを呟いている若者たちがあちこちにいる。


そう、若者たちばかり。
「わー、YMO だー」とばかりに往年の懐かしい記憶に浸ろうとする
僕らカレーの会のメンバーのような30代以上の人たちは周りを見渡すと少数派だった。
10代後半から20代前半ぐらいの若者たちばかり。
彼らの目的はなんなのだろう?
もしかして YMO 目当てでなくてただ純粋に SKETCH SHOW あるいは坂本教授なのか?
YMO? 名前しか知らない」って平気で言いそう。
この世はいったいどういうことになっているのか。


3人でやるのなんていつ以来だろう?
「テクノドン」を出してドームでコンサートをやったとき以来?
あれは僕が上京した年だから93年だ。
結構すごいイベントのはずなのに、なんであんまり騒がれなかったのだろう。
YMO」と名乗ってなかったからか?
結構みんな冷静で「Human Audio Sponge」はあくまで「YMO」ではないと割り切っているからか。
もっと客が押し寄せていろんな客層の人たちがいてもおかしくはないと僕は思っていた。
とはいえホールは冷め切っているなんてことはなくて静かな熱気に包まれていた。


なかなか出てこないので
「今頃楽屋で喧嘩か?」
「必死になってライディーンを練習してんじゃないか?」
「ユキヒロが『僕の帽子見つからないから出ない』って駄々こねてんじゃねえか?」
「『君に胸キュン。』をやんないかな。真顔で」
なんて言いあってるうちにステージが暗くなり、3人+サポート1人の4人が登場。
最初のうちは SKETCH SHOW の2人だけでやって、
最後になってもったいつけて教授が出てくるんじゃないか?という予想は嬉しくも裏切られる。


はー。これが伝説の3人か。
ものすごく感慨深い気持ちになる。
年取ったなあ。というのが率直な印象。
坂本龍一は白髪ばかりで文字通り教授って風貌になって一番年上に見えるし、細野晴臣もそう。
高橋幸宏は黒の、グリーンベレーがかぶるようなのをかぶっていたがその下はどうなっていたことか。
感慨深いんだけど、僕は熱烈な YMO シンパというか「教授命」な人ではないので、
「ま、はよやってよ」という気分になる。


演奏が始まる。音が出るのだが、誰が何の音を出してるのかちっとも分からず。
試しに音を出しただけなのか、それとも演奏として始まってるのかも分からず。
以下、前半部分の印象(あくまで印象)。


坂本龍一
3人の中では著しくITリテラシーの高い教授はすることもなく
iBookに届いたメールを読んでいた。
※マジで最初の3曲は微動だにせず。そっくりさんを連れてきて座らせてるのかと思った。
3年前のフジロックで New Odrer のステージを見たとき、
スペシャルゲストでスマパンを解散させたばかりの頃のビリー・コーガンが登場して
ニヤニヤ笑いながらギターを弾いていたものの音がちっとも聞こえてこなかったことを思い出す。


細野晴臣
目の前のコンピュータを使いこなそうと四苦八苦してるだけ。
そもそものヘルプ画面を呼びだすことができず、あちこち探ってる。


高橋幸宏
そもそもコンピューターを触る気もなく小さなシンセドラムを
一個だけ残ったダンゴの串みたいなので叩く。
その様はクラフトワークのなんかのアルバムの裏ジャケットにあった
メタル・パーカッション担当の二人のミュージシャンの立ち姿に酷似していて、
ああ、30年かかってついにこの境地に達したかとしみじみした気持ちになる。
(分かる人なら笑える話だと思う)


□サポートの男性
チューバやホルンを吹いていた。
もしかしたらこの人が音を全部出していたのかもしれない。
楽曲の再生ボタンを押すことも含めて。



後半。
坂本龍一がようやく思い腰を上げ、鍵盤に両手を乗せて単純なメロディーを弾く。
細野晴臣がベースを肩にかけ(しかし音が出ていたのか、最後まで判断つかず)、
高橋幸宏がドラムを叩く。
そしてスペシャルゲストとしてなんと Cornelius こと小山田圭吾が登場(!)
SKETCH SHOW のレコーディングに参加したと聞いていたので
もしかしたらとは思っていたのだが、ほんとに出てきた。驚いた。
最初ステージの袖から登場したときにも誰も気付かず、
サポートのもう1人か、ぐらいの扱い。
細野晴臣が「今日のスペシャルゲストです。小山田圭吾」と紹介したときも
(この日最初にして最後のMC↑)
「わー・・・」と反応はまばらというか虚ろ。
なんなんだろ。僕は1人で「すげー」と3人が登場したとき以上に興奮したのに。
すごい出来事のはずなのにな。この3人のサポートで小山田圭吾
1日本ロックファンとして生涯忘れられない光景となった。貴重だよなあ。


が、その小山田圭吾も裏方に徹してものすごく地味な仕事をしてなんの言葉もなく去っていった。
かろうじて聞こえるかどうかぐらいの細かくて小さな音を職人のように出すだけ。
フレーズらしいフレーズはほとんどなし。もちろんギターソロなんてあるわけなし。
もったいない・・・。


小山田圭吾のこの地味さ加減によく表れているように
はっきり言って音楽的には聞きどころなし。
そもそも僕は不届きなことに SKETCH SHOW
これまで1曲も聴かないままこのイベントに来てんだよな。
なのでどの曲がなんなのか知らないまま。
あーこの曲もあの曲も SKETCH SHOW のアルバムの曲なんだろうなあ。
ま、予習しようがしまいがどっちも同じだった。
そもそも坂本龍一を初め、3人にとって今回の演奏は楽しかっただろうか?
出た甲斐はあっただろうか?


最後の最後、アンコールの2曲目にして「Pure Jam」が出てくる。
ヴォーカルのサンプリングにくだけた、緩めのセッションが重なる。
いつかの WIRE でやったとされる、
ライディーンの2音だけ飛び出すみたいな小技を今回もやったりはしなかった。


最初からあんまり期待してなかったので
僕にとってはこの3人を見れたというだけでもう十分でした。
お釣りとして「Pure Jam」が聞けてラッキー。
そんなところ。


それにしてもなんで今頃坂本龍一SKETCH SHOW のライブに参加することになったのだろう?
素直に考えると sonar の趣旨に賛同したからなんだろうけど、
実際はどんな大人の事情があったのだろう?
「久々に3人でやりたくなった」なんてことは絶対なさそうな3人なのに。


アンコールの最後でのお辞儀の仕方のぎこちなさが非常に YMO らしくて、
ここだけはヴィジュアル的に「いいもんみたな」と思わされた。