「Monster」

水曜は野田秀樹の舞台を見る前にシネマライズにて「Monster」を見た。
平日午前の回で雨も降ってたのに、かなり人が入っていた。
次の回なんて行列が長々とできていた。
土日に見ようとしたら、見れなかったかもしれない。


シャリーズ・セロンがアカデミー主演女優賞を獲得して話題の作品。
「世界で最も美しい50人」に選ばれるぐらいの美貌と
バレエを続けていたというスレンダーなボディを惜しげもなく捨てて
13kgもの増量と特殊メイクにより、
90年代初めに全米を震撼させた女性殺人鬼アイリーン・ウォーノスを演じる。
プログラムの写真を見るとこれがまた実在のアイリーン・ウォーノスそっくりで、
増量前か増量後のシャリーズ・セロンとは全くの別人。
ロバート・デ・ニーロダニエル・デイ=ルイスが引き合いに出されているが、
大袈裟な話ではない。「たいしたもんだ・・・」と感嘆する。
なおかつ演技としても鬼気迫るものがあって、
これなら誰だって文句なく主演女優賞に選ぶと思う。


この映画はもうここまで来るとシャリーズ・セロンを見るためのようなもの。
アイリーン・ウォーノスになりきって
初めから終わりまでずっと体当たりの演技をするんだけど
なんかこれが自堕落な売春婦そのもので、「参りました」と無闇やたらと謝りたくなる。
栄養の偏った生活が長いからかおでこの皮膚は常に荒れていて、
汚れた下着が上も下もはみ出ているのは日常茶飯事。
ラスト近くのかなり大事な場面でもジーパンの隙間から白いのが覗いていた。
(悲しいことにそういうとこばっかり目が行く。性欲を掻き立てられはしないんですが)
ブタのように太った体を晒すヌードの場面まであった。
シャリーズ・セロンってこれまで僕の中で
「名前聞いたことあったかなあ?」ぐらいの位置付けだったので他の出演作品を見たことはなく、
過去の作品を見てみたら「えええええー!?」と驚くことになるんだろうな。
(「サイダーハウス・ルール」「スコルピオンの恋まじない」「ミニミニ大作戦」など)
とにかくこの女優魂はすさまじい。


あと、さすがにかすんでしまうんだけど、
クリスティーナ・リッチもいい演技をしていた。


映画としては監督パティ・ジェンキンスにとっては初めての作品となるせいか、
全体的にどことなく固かった。こなれてない。
隙間が多かった。侘びさびを生み出す類の隙間ではなくて、
映画を映画足らしめる有機的な構造を断続的に断ち切るような隙間。
隙間というよりは「隙」か。
これが手馴れた監督による作品でシャリーズ・セロンの熱演がそこに乗っかっていたら、
もっと別な印象になったと思う。
悪くはないんだけど、なんとなくぎこちない印象を受けた。
全編シャリーズ・セロンとクリスティーナ・リッチの「地獄の逃避行」系カップルが出ずっぱりで
その他の登場人物ってのがいないに等しいから、どうしても奥行きに欠けるのだと思う。
逆の言い方をすれば平面的。
クリスティーナ・リッチが預けられていた家の奥さんであるとか、
シャリーズ・セロンの数少ない友達であるベトナム戦争帰りのアル中であるとか、
そういう人物たちをもっと掘り下げれば、人間のドラマとしてもっと厚みが出たのでは。
(なんて偉そうに言ってみたりして)