Frozen Beach (revisited)

僕は彼に僕の絵を書いてもらったことがある。
僕らが旅に出る前。あれはどこへ行ったのだろう?
・・・なくしてしまった。
画用紙を折り畳んでノートに挟み込んで、
そしていつのまにかノートごとなくしてしまった。最低だな。
肖像画」はリョウジとミユキとヨウコの分もあったはずだ。
あいつら大切に今でも持っているだろうか?


あのとき僕らは市民ホールの中にいて、
舞台の上で椅子を並べダイスケと僕は向かい合って座っていた。
つまらない世間話をしながらダイスケはデッサンを続けていった。
「ウイルスらしいな」とか「違うよ。ぶつかったんだよ、隕石が」とか。
ステージの端にはグランドピアノが置かれていて
ヨウコがクラシックの曲(聞いたことはあったが、僕は知らない)を弾いていた。
淡い色合いの音がホールいっぱいに広がった。
そうだ、客席にリョウジとミユキがいて、わざとらしくいちゃいちゃしていた。
ダイスケの手は何の迷いもなく、しかしゆっくりとした動作で、
口笛を吹きながらサラサラとスケッチブックの上を動いていった。
合間合間にわざとらしくいっぱしの画家のようにポーズを決めた。


出来上がった僕の絵は僕そっくりのようでいて、僕以外の虚ろな何かだった。
僕は悲しそうな表情を浮かべていて、その背景には何も描かれていなかった。
ダイスケがスケッチブックを覗き込んで言った。
「おー、かっこよく描いてもらってよかったじゃねえか」
ミユキもヨウコも「うんうん、似てる」と言った。


そしてその何日か後、僕らは車に乗って「旅」に出ることを選んだ。
その頃にはもう僕らの行く手はどこもかしこも雪でびっしりと覆われるようになっていた。
文字通り「旅」だった。ドライブとかキャンプとか言い換えてもいいぐらいにはしゃいでいた。
未来と呼べそうなものがどこにもないってことに薄々気付いてはいても、無邪気なものだった。
何もわかっていなかった。
知ろうともしなかった。


「この世界はゆっくりと終末に向かいつつあった。
この世界は長い長い氷河期を迎えようとしていた」
これはダイスケがこの凍りついた全ての物事を
スケッチブックにシャーペンで描いたときに下の端に書き入れたフレーズだった。
あの時僕は大袈裟な、と思った。世界だとか終末だとか。
「気が滅入るようなこと言ってんじゃねえよ」と僕は叫ぶように言った。
だけどその後の長い日々を過ごしていくうちに僕の中でこのフレーズは
何度も何度も思い出されることになる。
そして頭の中にこびりついて二度と離れなくなった。
僕は砂の塊に向かって呟いた。
「ダイスケ、冗談じゃねえよ」


ミユキから手渡されて僕の手にスコップが戻ってくる。
掘り返した砂の山を少しずつ切り崩す。
ザッザッという音が雪の中に吸い込まれていく。
やがてダイスケの体は完全に砂の中に埋もれて、消えてなくなった。
平らな砂の地面だけが残った。
降り出した白い雪がその上にうっすらと積もっていった。