Frozen Beach (revisited)

僕とヨウコが車の停めてあった駐車場に戻ると
リョウジがポツンと1人車の側に立っていた。
聞こえるか聞こえないかの声で「・・・んだよ」とリョウジは呟いた。
僕は立ち止まって次の言葉を待った。
何が起きたのか、聞かなくてもわかってた。だけど、言葉にしてはっきりと聞きたかった。
ヨウコの口から「ウソ・・・」と漏れた。


「死んだんだよ!何度も言わせるなよ!どこ行ってたんだよ!!チクショオ!!」


リョウジは思いっきり車のドアを蹴った。
そしてうずくまって泣き出した。
(あとから思うと、弱い部分を絶対さらけ出そうとしないリョウジがあとにも先にも
無防備な自分をさらけ出したのはこのときだけだった)


僕はどうしたらいいのかわからなくなった。
そのときの僕は悲しいとか寂しいとかそういうのを通り越して、何がなんだかわからなくなっていた。
涙は出なかった。
足元のわずかばかりの空間を切り取られて、四方を奈落が取り囲んでいる、そんな気分だった。
僕の体が小さくなったのかそれとも地平線が無限に延びていったのか、
視界が広がってこの世界の大きさというものをはっきりと感じ取ったのに、
そこには何もなくてそこにいるのは僕一人だけだった。
そんな瞬間が永遠に続くような感じがした。


息苦しくなって、だけど体の力が抜けて、僕はヨロヨロと駐車場を歩き出した。
すぐにも雪の塊に躓いてあっけなく転んだ。
顔が雪の中に押し付けられて、そこで初めて僕は涙を流した。
手を腕を動かしても冷たい雪の間を突き抜けるだけ。
波間にもがいて、漂っているかのようだった。
寄せては返す波のような何かを全身で感じた。
その頃にはこの世界はとてつもなく小さなものへと収縮してしまっていた。
想像もつかないほど巨大な何かが小さな一点へと移ろいゆく
その様々な瞬間が切り取られてランダムに繰り返される、
その周期は僕の心臓の鼓動と合うようになって
やがてその最後の一点へと近付いていく。


どれだけの時間が過ぎただろうか。
僕は立ち上がるといつのまにか車の側に戻っていてヨウコの体を両腕で抱えていた。
泣きじゃくるヨウコの細かな震えが伝わってきた。
僕の震えがそこにシンクロして離れられなくなった。
そこから先のことは記憶がない。失われてしまった。


誰が言い出したことなのか、何の意味があったのか、さっぱり覚えていないが、
その後僕たちは後ろのドアを開けて後部座席のダイスケの体をトランクに移した。
ぐにゃりとしたゼリーの塊のようだった。
そのうち死後硬直ってやつが始まるのだろう。
今となってははるかな昔、大勢の人間が死んでしまった。今そこにダイスケも加わった。
あの時のウイルスは何もかもを焼き尽くしてしまったが
ダイスケはその体が残ったのだから幸福なのかもしれなかった。
気が遠くなるぐらいものすごい確率を経て生き残ったのに
いつの日か別な原因で死ななくてはならない。
人とか人間とか人類っていうのは全くもっておかしな生き物だ。
バカバカしい生き物だ。
後に残された人間たちが生き延びる理由は、
後に残された僕らが生き抜いていく理由は、
いったいなんなのだろうか?