手付かずのコンビニを襲撃して、缶詰をいくつか見つけた。
ペットボトルが手付かずで残っていた。いくつかは凍って破裂していた。
恐らく避難する前に持ち出せるものは全て手分けして持ち出そうとしたのだろう、
シャッターをこじ開けると慌しい雰囲気が瞬間パックされていた。
逃げ損なった亡霊がひっそりとした薄暗いフロアに漂っているかのような感じがした。
何の役にも立たないと判断されたのか、雑誌はそのほとんどが残っていた。
僕らは並んで立ち読みした。僕はスピリッツを読んで、その後風俗系の雑誌を手に取った。
ある店に所属している女性たちが裸になって1枚1枚写っていた。
スリーサイズとチャームポイント、趣味、得意技、早番か遅番か。
ここに写っている彼女たちもみんなみんな、死んでしまった。
リョウジとミユキが背後から覗き込む。
「いい子はいたか?」ニヤニヤ笑ってる。
「この期に及んでおまえまだ性欲があるのかよ?」
僕はスタンドに雑誌をしまう。「たぶんね」と僕は答える。
昼間の海辺に戻る。
夕飯として、車の中で袋に入ったインスタントラーメンを生で食べる。
乾燥した麺を袋の中で大雑把に砕いて、そこに粉末スープを降りかける。
口の中がしょっぱくなってくると解かしたミネラルウォーターで流し込む。
今日見つけた瓶詰めのピクルスを食べる。生ぬるいウィスキーを飲んだ。
夜、コンビニで見つけた歯磨きセットをヨウコに渡す。
彼女は「風呂上り」だった。
1.カセットコンロでお湯を沸かす。
2.屋内で着てるものを脱いで、寒くて寒くてたまらない中を布で体を拭く。
僕も風呂上りだった。
海辺を探索した後で「ここにするか」と入り込んだ民家。
1人ずつ部屋の中に入って、そして出てくる。
懐中電灯片手に暗闇の中をザクザクと歩く。
かつて工事中だったのか、キューブの外枠のような形をしたコンクリートのブロックがずらりと並んでいる。
僕らはその中に入り込んで風の来ない場所を見つけるとカセットコンロでお湯を沸かし、歯を磨いた。
そしてその後で何の脈絡もなく、キスをした。
口を合わせて舌を絡めた。
単細胞生物がノロノロと惰性で動いているようなキス。
ヨウコは目を開けていて、僕も目を開けていた。
ヨウコはそこに何も見ていなかった、僕も何も見ていなかった。
やがてどちらともなく顔を離す。
僕はヨウコの着ていたダウンジャケットの前を開けて、手袋を外した。
セーターを重ねて着たその内側に右手をそっと押し込んだ。つるりとした柔らかい腹の部分に触れた。
指先の冷たさにヨウコが一瞬顔をしかめた。
やりたいわけではなかった。
ただ、誰かがそこにいるのだということを「触れる」ことで確かめたかった。求めたかった。
動きが止まった僕の右手を、ヨウコが両手で包み込んだ。
ヨウコの右手が僕の右手を、しっかりと壊れそうになるくらい強く握り締めた。
ヨウコは目を閉じていた。僕も目を閉じた。