デモ行進に遭遇する

夕方、17時頃だっただろうか。
荻窪駅前の西友に買い物に出かけたら
拡声器を持った警察官が「今からこの道路をデモ隊が通ります」とアナウンスしていた。
デモ?なんで荻窪で?
そう思いながら西友の中に入っていく。


買い物を終えて出てくると、ちょうど目の前をそのデモ隊が通りかかるところだった。
耳をつんざくばかりに派手派手しい爆音が路上に響いていた。
10年前のディスコでかかっていたようなレイヴにデスメタルを掛け合わせたような
まがまがしいまでににぎやかな音楽。
チンドン屋の奏でる音楽を純粋培養していって突然変異の変種ができたらこんな感じとなるか。
デモにしては非常にうるさかった。
何のための行進なのだろう?
僕が思いついたのは中国とか北朝鮮とかに対するこの国の態度に関するものであって
だとしたら声こそ張り上げるもののこんなうるささは必要としないはず。
なんなんだこの集団は?


デモとしてはそれほど大きなものではなく、50mほどか。
その前後を機動隊のバスで挟まれている。
先頭は軽トラックでそのすぐ後ろを若者たちがバラバラと歩き、何人かは飛び跳ねていた。
トラックの横には「落書き社会」と大きく書かれていた。
レインボーカラーの旗に「PEACE」と書かれたのを振っている人がいた。
何も書かれていないただただ真っ黒な旗を持っている人もいる。
僕は歩道橋に登って彼らを真上から眺める。
楽器を持っている人たちがいた。
サックスを吹いている人、小太鼓を叩いてる人。
若者たちの中に、40過ぎの人たちも混じっていた。


歩道橋を降りて彼らの進む方向に向かって僕も歩いていく。
帰り道の方向が一緒なのだから仕方ない。
彼らは車道をノロノロと進んでいく。一般市民はアーケードの下を歩く。
これがまた道が細くて慢性的に自転車が乗り捨てられてるから混雑して身動き取れなくなる。
人波を書き分けていったら
盾のようなものを持ったフル装備の警官たちの集団が前を歩いていてそこから先進めなくなる。


軽トラックにはこんなノボリが立てられていた。
「監視社会に捧ぐサウンドデモ
中ではDJが慌しくレコードをこすっていて、おもちゃの機関銃のような音を出していた。
サウンドデモ。なるほどな、と思う。
だからこんなに騒々しいのか。


それにしても何でこんな時間に荻窪なんかを行進しているのだろう?
人々に訴えかけるにはもっと適切な通りが東京にはもっとあるはずなのに。
彼らはどこから来てどこへと向かうのか?
このまま青梅街道を進んでいって、都庁のある新宿を目指すのか?


警官の後をついて歩く。
デモ隊と同じスピードで、同じ方向に向かって。
これがどこか他の国でどこか他の時代だったら、
僕も参加者に間違えられて逮捕されてしまうのだろう。


ビラを配っていたのでもらった。
表には「監視を撃つ」という標語と監視カメラの写真、真っ赤なバラ、
そして Rage Against The Machine 「The Battle of Los Angels」のジャケットにあった
右腕を高く掲げる人物の輪郭を描いた絵。
裏にはこんなことが書かれていた。
「わたしたちはK君への仕打ちを絶対に許せない。
 だから、まず、あの公演からデモをしよう!」
話を要約するとデモの提唱者は昨年春「杉並区西荻わかば公園」の公衆便所の壁に
「戦争反対」「反戦」「スペクタクル社会」と書いたところ近所の住民に通報され、逮捕。
「建造物破損」罪により、懲役1年2ヶ月・執行猶予3年の有罪判決。
こんな社会はおかしいと。街のあちこちが監視されている。
監視社会が到来する。


ふーん、と思う。
なるほど、だから荻窪駅前を彼らは歩いていたのか。
僕自身はいいとも悪いとも思わない。
(デモ行進という行為自体に何の興味もない。一生参加することはないと思う)


ただ、その公園の壁を見てみたいとは思った。
「戦争反対」と書くだけで1年2ヶ月の懲役になるってなんかおかしい。
世の中の多くの人がいたるところで落書きをしてるのに、捕まった話はあまり聞かない。
「戦争反対」という言葉そのものがいけないわけがない。
よほど神経を逆なでするような書き方だったんだろうな。
自転車に乗って見に行こうかなと一瞬思ったんだけど、
裁判になるぐらいだからとっくの昔に消されてるはずだと考え、やめといた。
(もし残っていたらお笑いだ)
その落書きを見てみないことには何の判断もできない。
観光地の旅の思い出みたいな無邪気な落書きなのか、
この僕ですら「こいつ頭おかしいんじゃないか」と気分を害し、
突き出したくなるような毒々しいものなのか。
前者であるならば確かにこの社会はおかしなことになっている。


主張のある人は主張すべきだし、
仲間を集めて「運動」を起こすのはいけないことだとは思わない。
でも、今日のデモは聞きたくもない下世話な音楽を爆音で聞かされてはた迷惑だった。
騒音公害。選挙の前の政治家と一緒だ。
何の関係のない人に我慢を強いるようなデモっていい印象もたれないんじゃないの?
落書きと、監視と、あの雑音に何の関係がある?


帰り道の神社では七五三ということで縁日が開かれていた。
空も暗くなって、屋台の灯りがほのかに眩しかった。
祭囃子の音がかすかに聞こえた。


部屋に帰ると、フランク・ザッパを聞いた。
アルバムはもちろん、「ジョーのガレージ」