本を出します その3(出版社へ)

出版社の入っているビルがすぐにも見つかり、エレベーターに乗って5階へ。
出版社はビルの中のいくつかのフロアに分かれていて、
僕がこれから会うことになる出版プロデュース担当のMさんは
以前郵送してもらった書類の中に入っていた名刺を見ると5階になっていた。
初めて訪問する会社ってのはビクビクするもんですよね。
それは仕事のときだけじゃなくてやはりプライベートのときも変わりなくて、
ドアが閉まっていたらどうしようとかそんなことを考える。
4階になり、5階になり、エレベーターが開く。
目の前のドアが開けっ放しになっていて、「入っていいんだろうな」と思う。


中はシーンと静まり返っている。女性が1人机に向かっている。
歩きかけるとその人が振り返る。僕はMさんですか?と聞く。
オカムラさんですか?」と聞かれる。
2階で打ち合わせしましょうということになって
2人でエレベーターに乗って降りていった。
2階もまたシンと静まり返っている。
ミーティングルームがいくつかあって、その中の1つに通される。
もう1つのところでも打ち合わせがなされていた。
出版社というと「とにかく忙しい」というイメージが僕の中にあって
平日も土日も、昼も夜もないのではと思っていたのだが、そういうことではないようだ。
それとも出版社によっていろいろ違うのか。
Mさんとやりとりをしているとここの出版社では土日は普通完全に休みのようだった。
この日たまたま他の用事で出社しなくてはならなくなったということで、
じゃあ僕もと会いに行くことにした。僕は逆に土日でないと時間が取れない。


ミーティングルームは社内用のものではなくて
社外の人と打ち合わせするためのもののようで、
その出版社にて最近出した本が壁沿いにもテーブルの上にも並んでいた。
ああここにも僕の本が並ぶことになるのかと思うと
なんだかとてもふしぎな気持ちになる。
僕はこれまで住んできた小さな世界からどこか別な世界へと足を踏み入れつつある、
そんな気分になった。


打ち合わせが始まる。
以前頂いた企画書の説明を一通りしてもらう。
ハードカバーにしますか、それともソフトカバーにしますか、
1ページには縦何文字で横何文字で計何文字印刷されるのが普通で、
読みやすさから考えると標準的な組み方が云々かんぬん。
僕は丸っきりのシロウトなので、「その辺は全部任せます」ということになる。
奇をてらったサイズにしたりなんて、もう考えられない。
全部ごくごく普通でお願いしますと。
初版の部数や印税の仕組みや定価についても企画書にあった通りに。
内心「いや、もうその辺のことは何もわからないのでとにかくお任せ」なモード。
最後に費用のことを聞かれて分割でも払えますが、というのを
強気に「一括で前払いしますよ」と答えて、
では契約書を作成してお送りしますということになる。
だいたい11月末までに契約を交わして
12月頭には担当の編集がついてそこから実際の製作が始まる。
見出しをつけたり、僕が旅行中に撮った写真から使えそうなものを選んだり。


デザインのイメージを考えといてくださいと頼まれる。
そもそも作家の方でどうしたいのか、はっきりしといた方がいいとのこと。
(↑「作家」と呼ばれてジーンと感動する)
書店で目に留まって手に取った時にページをめくってみようという気を起こさせるかどうか。
このとき、書いてある内容と装丁によりもたらされるイメージとがぴったり合う方がいい。
「こういう感じ」というのを提示してもらえるといいですね、と言われる。
「文章を拝見する限りオカムラさんは本を読むことがお好きなようですので、
 好きな装丁の本があると思うんですよね。音楽もお好きなようなのでCDでも構いません」
難しいよなあ、と僕は思う。
サハラ砂漠をイメージした色にするかとかいうような具体的な話もあれば、
クールなものにしたいよなあという全体的なトーンの話になっても
「じゃあクールってなによ?」ってことになるし
宿で険悪な雰囲気になるは事故に合うは生水を飲んで腹を壊すはという
実際の内容にもあんまりそぐわない。


コンテストに応募ということで完成した文章を提出してしまっているのだから
後はもう僕のすることはなくて出版社の編集の人が本を完成させてくれるのを待つだけ、
あるとしても文章の手直しだけ。それと作者による校正。
最初僕はそう思っていた。そんなことはないようだ。
Mさん曰く、作者にもいろいろ頑張ってもらって一緒に作っていった方が、
作る過程を楽しんでもらった方が、いい本ができるとのこと。
なるほど、そういうものなのかと思う。
(続く)