歯医者その10

定期検診ということで3ヶ月ぶりに歯医者に行く。


夏の間通っていた時はずっとモロッコの話をしていたので、
自然と流れは旅行記出版のことになる。
(僕も人の子なので機会があると言いたくなるんですよね。特に今はそういう時期。すいません)
いきなりのことなので「すごいですね!」と驚かれる。
しかも今まで一介のサラリーマンと思われていた患者が言うのだからなおのこと驚かれる。
目を真ん丸くして。
本になったら買いますよとか、サインしてくださいとか言われる。
みんな反応は一緒なもんなんだなあ。


歯科衛生士の方に「文章を書くのは好きなんですか?」と聞かれて、「好きですね」と答える。
これからも旅行記を?−−−いや、どちらかと言えば小説を。
お仕事と両立させるのは大変ですね。−−−できたら小説だけにしたいんですけどね。
それって難しいですよね。−−−なかなかなれないですよね。
どういう小説を書くんですか?と聞かれて返答に困る。「・・・純文学?」と答える。
「SFっぽいのが好き」とはあんまり言いたくない。


歯の検診を受けたり、掃除を受けている合間合間に話は続く。
「文章を周りの人に見てもらってるんですか?」
僕は日記のことを話す。インターネット上で毎日更新していると。
いつ書いてるんですか?−−−朝早く来て会社で書いてます。
朝?前の日のことを?−−−前の日のこともあれば、・・・いろいろです。
いろいろ?−−−書くことがないとフィクションだったりしますね。
そこから「フィクション」というか物語の話になる。
最近ではどういう物語を書きましたか?


「・・・えーとですね、世界の終わりをテーマに・・・」
「世界の終わり!?」(笑う)
「地球がですね、あのー氷河期に入って、若者たちがですね、まあ、その(ごにょごにょ)」
「他にはどんなのを?」
「その前は、主人公の学生が小さな女の子を1日面倒見ることになって、水族館とか行くようなやつ」
(↑未完のままほったらかしにしていることをようやく思い出した)


こんなふうにしてずっと喋りっぱなしだったのであるが、
「見てみたいです!そのURL教えてください!!」
とならないこのきれいさっぱりとした脈なし感のすごさ。
「患者とは大いに話すべし。言葉のキャッチボールにより歯科治療にまつわる不安を取り除くべし」
そんな教育というかモットーの行き渡っている度合いの高さに改めて感心させられる。
「半年後に本が出ます。じゃあそのとき買います」はあっても
「ホームページあります。じゃあ今から早速見ます」とはならないんですね。
衛生士−患者という抽象的な間柄からすれば直接的過ぎるから。
プライベートに踏み込むようなニュアンスもあるし。


結局のところ僕はただの話のネタのある患者に過ぎない。

    • -

肝心の歯の治療はというと。


この3ヶ月、歯間ブラシは週に1度か2度使うもののデンタルフロスは使わず。
いつのまにか歯磨きも雑になっていく。
そんな僕の歯と歯茎の状態はあまりいいものではなくなっていた。
歯には歯石がつき始め、歯垢も溜まっている。
歯茎も炎症が起きている。
しかもこれが状態のいい部分とひどくなっている部分とかがあって
「歯のお手入れをするときの癖がはっきり出ていますね」と指摘される。
左の下側はなかなかきれいだが、右の上はダメ、とか。
「お手入れの方、あんまりよろしくないですね」と眉をひそめられる。
しかもデンタルフロスは結局1度も使わなかったと正直に告白するとがっかりされる。


レクチャーが始まる。
「脱灰」と「再石灰化」について。
虫歯の元になる菌は食事の後に増えだしてその結果として口の中を酸性化させる。
酸性が強まるとどうなるかというと歯のカルシウム分が溶けだす。これが「脱灰」と呼ばれる作用。
「脱灰」は際限なく続くものではなく、唾液で菌が殺されたり、
歯磨きをして歯を清潔に保つことで抑制される。
その一方で歯は溶けていくばかりではなく、「再石灰化」という形で歯の修復も自然と行われる。
健康な歯を保っている人ならばこの「脱灰」⇔「再石灰化」というサイクルが問題なく行われるが、
歯の手入れを怠っている人はこのバランスが崩れて「脱灰」の比重が高くなり、
削られていった歯はやがて虫歯となる。


こんなふうに理論的に説明されると「あー歯磨ききちんとやらないとな」という気持ちになる。


前回、虫歯ができかけてますねとされていた個所はきっちりと虫歯になり、治療しなくてはならなくなる。
それと親知らず。「抜いた方がいいですね」とあっさり言われる。


歯医者通い再開。また当分続く。

    • -

日記について話していたとき、こんな発言が飛び出す。
「日記ってことは、今日は歯医者に行きましたって私が登場するんですか?登場したいです!フフッ」


言われなくても、毎回登場してるんですよ・・・。