椎間板ヘルニア その後

5月頃だっただろうか。椎間板ヘルニアになったことを書いた。
あれから地道に治療に通った。
首の牽引。滑車のようなもので片方には錘をぶら下げて、首をゆっくりと引っ張る。
夏ごろまでは週に3回通って、秋には2回に減らし、11月に1回となり、
医者からは「11月に痛みがなかったら、診察なしで終えていいです」と言われていて、
それが今日で終わり。半年かかった。
今でも肩が痛いような痛くないようなうっすらとした違和感があるが、
これは俗に言う肩こりなのかもしれない。
少なくとも指の先がピリピリと痛むようなことはなくなった。
しばらく休んで様子を見て、また痛み出したら通院再開。


週に何回か会社をこっそり抜け出して浜松町駅の貿易センタービルの14階の整形外科へと通った。
息抜きにちょうど良かった。
寒さが本格化する時期が来る前に終わってよかった。
会社サボって抜け出すのにコート着てたらさすがにおかしいもんな。


小さな診察室の隣に治療室があって、
牽引の機械がセットされている席に腰掛けると目の前には灰色の大きなロッカーが置かれている。
ちょうど顔と向き合う位置に恐らく雑誌を切り抜いたものであろう、風景写真が貼られている。
右下には「Yorkshire. North England」
左上には「トップ・ウイゼンズ(嵐が丘)付近の風景」と書かれている。
遠景として眺めるならばそこにはのどかな田園風景が壮大に広がっている。
だがよく見ると丘の上に立ったカメラは、その真ん前にいくつもの無骨な岩を捉えている。
荒涼という言葉を思い出す。
嵐が丘」の舞台となった場所なのだろうか?
エミリー・ブロンテの「嵐が丘」を読みたいと思ってもう10何年になろうとしている。
 いつでも読めると思うといつまでも読まない)
灰色の風が常に吹き流れている場所。写真からはそういう印象を受ける。


今日は月末だったので看護婦の人たちがあちこちに電話をかけて
「前回自費でお支払いただいた分を精算したいので保険証を早めにお持ちいただけますか」
とお願いをする。
首の牽引を受けながら聞いていると
とある労災の患者に関してある会社にかけてみたところ別な番号を教えられ、
そこにかけると「そのような社員はおりません」と言われたようだ。
不思議なものである。
でもこんなことばかりなんだろうな。


牽引を受けていると診察室にて医者と患者が話していることが聞こえてきて、
今すぐにはやりとりを思い出せないが
世の中には様々な部位に関する様々な痛みがあって、
そのそれぞれに対して様々な原因があるということを知る。
「それはもう、あなたの年齢だったらここの部分が磨り減って当たり前なんですよ」とか。


牽引は10分。
椅子に座り、首をゆっくりと引っ張られてまたゆっくりと下ろされてを繰り返す。
その間いろんなことを考える。
行き詰まった仕事についてあれこれ思いをめぐらすこともあれば
そのとき書いていた文章を頭の中で推敲することもある。
何もしない10分。
僕としては牽引の治療に出かけることはなかなかいい気分転換だった。
終わりとなると少しばかり残念な気持ちとなる。
かといってまた椎間板ヘルニアが再発してほしいとは思わないが・・・。