負け犬の夜

昨日の夜はクリスマスイヴだった。
顧客との打ち合わせを終えて新橋からゆりかもめに乗ると
お台場へと向かうカップルたちばかり。
座席に座って、並んで立って、何かを耳元で囁きあっていた。
汐留でさらにカップルたちが乗り込んできて、
車内はいろんな種類の甘ったるい匂いでいっぱいになる。


5時半の定時になると食堂に下りていってラーメンを食べた。
クリスマスイブの夜に社食で食べるのはまあ率直に言って侘しい。
ニュースでは丸の内の東京ミレナリオの点火の瞬間をレポートしていて、
灯りがついた途端歓声が巻き起こった。
ブラウン管を眺めながら「ああ、僕は人生の負け組なのだなあ」と思った。


20時ごろ、仕事する気がなくなり、
同じく負け組路線を歩みつつある後輩を誘ってサシで飲みに行くことにする。
金曜でどこも込んでるだろうと駅の方まで出ることはやめて、
会社の隣のビルにあるインド料理屋に入った。
ごく普通にカレーを食べている人たちばかりかと思いきや
どのテーブルも恋人たちで占められていた。
2人向かい合ってうっとりとした表情でナンを千切っている。
信じられない。こんなところにまでカップルというものは進出してくるものなのか。
僕はインベーダーに襲われた後の地球を逃げ惑う一般市民のような気持ちになる。
ヨレヨレの背びれを着て、僕は走っている。


ガラスの向こうには竹芝桟橋が広がっていて、
きらびやかなディナークルーズの船が戻ってきたところだった。
遠くにはお台場のイルミネーション。
あの華やかな観覧車の1つ1つにカップルたちが乗っていて、
みんなみんな甘い気持ちに浸っているのだ。


食べ終わると店を出て、後輩と別れて、いつも通り地下鉄に乗って家に帰った。
あー明日も仕事だと早々と布団に入った。


例えば、先週の土曜の夜の新宿のバーに行くというのはどうだろう?
そこで彼女が独りきりで飲んでいたとしたら。
僕が来るのを待っているのだとしたら。
・・・そんなドラマや漫画のようなこと、あるわけねえやと思いながら眠りにつく。
疲れていたから一瞬で眠ってしまった。


そして今日、クリスマス。
朝起きてこんなことを思う。
「20代最後の日まであと1週間しか残されていない」
・・・なのにその1週間も仕事で終わってしまいそうだ。
土曜も日曜もずっと出続けて。


メリークリスマス。
世界に平和を。人類に夢と希望を。
全ての人たちが幸福に暮らせる世の中を。


早いとこ何もかもがきれいさっぱり終わってほしい。