忙しいのよ(10)

もう29日。20代最後の日々もあとわずか3日。
為す術もなく1日1日が過ぎ去っていく。
手の平の隙間から零れ落ちていくように。
そしてそこには何も残らない。
唖然とするが、日々疲れているので反応が鈍くなる。どうでもよくなる。
20代もこれで終わりか。ハハハ。ハハハハハ。


もう29日。地下鉄に乗っているとサラリーマンの姿は減って、
スーツケースや大きなボストンバッグを抱えた人の姿が目立つようになる。


東京の最高気温は5℃。この冬一番の寒さ。
初雪が降る、と昨日の天気予報で言っていた。

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朝6時過ぎに家を出て駅の方に向かって歩いていると
徹夜明けで家に帰る人たちとすれ違うことになる。
風俗系の人たちが多い。というか、そんな感じがする。
男性はわかりやすい。ホストみたいなのがブラブラ歩いている。
女性はわかりにくい。黒だったり白だったりのけばけばしいコートと
厚化粧、不自然な色合いの髪の毛。
何かしらの形で体や心を売るような商売についているのかもしれないし、
もしかしたらただ単に深夜営業の居酒屋かファミレスの店員なのかもしれない。


最近この時間帯に明け方まで風俗で働いてそうな人たちとすれ違うと妙な親近感を感じる。
まるっきり正反対なのに、
提供するサービスの内容や顧客の満足度は正反対なのに、
地下鉄の中で見かけるサラリーマンに対するよりはよほど親近感を感じる。
流れ流れていくうちにいつのまにか
そこに身を置かなくては生きていけないような境遇に陥ったこと。
「生きていく」というとなんだか大袈裟だが、
つまるところのんべんだらりと
その場所で食べたり笑ったりだるそうにしたりすることに甘んじてるって意味では
まあそういうことになるのではないか。
切り売りできるものは心とか体とか時間とかそういうものしか残っていない。
そしてそれが何のためであるかといえばお金のためでしかない。
そのことに対して自覚的かというとそうではなく、
そんな自分に目を背けようとしている、
あるいはそこで何が起ころうと気付いていない。気付こうとしない。
よく言えば刹那的、悪く言えば・・・。


ほっとくといろんなことが安っぽくなっていく。
そしてそのことを無意識のうちに受け入れるより他なくなっていく。
追い詰められていっていつの日か足元を掬われる。


その無様な姿を見て、誰かが笑っている。
笑われていることは分かるのだが、それが誰なのか、
どんな顔つきをしているのか、太陽を背にして逆光になっているから、
うずくまる僕らにはわからないようになっている。