地獄(その2)

寝袋で仮眠。電気は消したものの会議室(兼、荷物置き場)となるため人の出入りはある。
その都度目が覚める。「おーオカムラ君寝てるぞー!?」という声が聞こえる。


目覚ましを鳴らし、8時にモソモソと起きだして現場に戻る。
引き続きトラブル対応が際限なく続く。
正直投げ出したくなる。
(「こんなのどうだっていいじゃねーか!!」と心の中悪態をつく)
「もうだめだ。どうにもならない。僕にはどうすることもできない」
という局面が1日に何度も何度も出てくるが、ありがたいことに
その都度その都度困った状況を助けてくれる人が出てきて、なんとか乗り切っていく。


この日は朝も昼も食べないまま仕事して夕方ホテルに行って4時間寝た。
その後すぐ1時間ほど食事の休憩を取った他はセンターにて朝6時までトラブルの対応が続く。
予想してなかったところまでトラブりだし、
その日関わったところ、手をつけたところ、みんな壊れていくように思えてくる。
気が狂いそうになる。
センターは同じように徹夜だったり夜勤だったりの人たちばかりで
朝も昼も夜もぐったりした雰囲気が漂っている。
べったりどんより染み付いてしまってなんだか末期的だ。


夜の仕事の前に「ユンケル黄帝液L」を飲む。
「L」ってなんなのだろうと、年末年始にオフィスで話題になったことを思い出す。


時間にちょっとだけ余裕ができると心にぽっかりと穴が開く。
取りとめもないことを考える。
「なぜ無料のことをロハというのだろう?
 もしかして只をカタカナにしたらロとハになるからか?」
 そうか。わかったぞ!俺ってさえてるな・・・」


夜、ホテルからセンターまでの道のりを歩く。
川沿いに遊歩道があって、下りていく。
川は両側がコンクリートで覆われていて、川というよりは運河のようだ。
その両脇に背の高い無機質な団地が建てられている。
灰色っぽいベージュの壁。同じ大きさの窓とベランダが幾何学的な模様のように並んでいる。
この世界はシンと静まり返っている。
小さな児童公園があって、もちろんそこには人の姿はなくて、
ブランコが、滑り台が、押し潰されたように、所在無げに、錆付いていくのを待っていた。
僕は立ち止まりそんな光景を眺めるが、すぐにもまた歩き出した。