(Scene13)

(Scene13)


焼け跡を模した部屋の中。
壊れた家具。散乱する焼け焦げた衣類や書物。
(照明は薄暗くする)


その家は普段、廃墟として誰も訪れることのないままになっている。
火事になった後、何ものかの手によって
周囲から、社会から、意図的に取り残された。
古い傷跡のように。


男は懐中電灯を手に忍び込むように舞台に入ってくる。
(男は地味な色のトレンチコートを着ている)
何かが上から落ちてこないか、下に落ちている何かに躓かないか、
一歩ずつ一歩ずつ確認するかのように慎重に歩く。
怯えてはいない。
ただ、何が待ち受けているかわからないことから来る緊張感に全身が捕われている。
人間としての本能が半分と、その職業が経験として教えた立ち振る舞いが半分。
彼は何かを探している。あちこちに乏しい光を当て、手探りする。
何かを取り出しては調べて元に戻すという行為を繰り返す。
(彼はプロとして、初めての場所であってもどこに何を探すべきか心得ている。迷いがない)
アルバムのようなものを見つけては中をめくる。
小さな箱のようなものを見つけては開けてみる。
目当てとするものはどこにも見つからないようだ。


男は写真を拾い上げる。
写真のクローズアップ/プロジェクターにて舞台上のスクリーンに映し出す。


少女が家族とともに撮った写真。
笑顔で映る少女。その両脇に両親と思われる人物。
右下隅が焼失して失われている。
背景は春の公園のようだ。撮影は盛りを過ぎた桜の木の下で行われた。
少女の笑顔はどこかぎこちない。陰りがある。
それはそのときの彼女の心の中の「揺れ」を表出したものではなく、
彼女が本来持っている性質によりいつだってそうなのだということを感じさせる。


映像/写真がフッと消える。
男が1人舞台の上に取り残されている。
男は写真をコートのポケットの中にしまう(無造作に押し込む)。
男は両手をポケットに突っ込んで、客席の方を向いて立つ。
悲しみと困惑が入り混じったような表情を浮かべている。
(客の誰かに顔を向けるのではなく、視線はずれていること)
1秒か2秒。
その後その場を立ち去る。