西原理恵子「上京ものがたり」

上京ものがたり

上京ものがたり

西原理恵子の新作「上京ものがたり」を読む。
不覚にも涙がほろっと出てしまった。


書き下ろしなのだろうか。どっかで連載されてたんだろうな。
高知から上京して、夜の仕事をしながら美大に通って
エロ雑誌のカットを書くところから始まって漫画家になるまでを綴った自伝的内容。
西原理恵子ってとにかく無軌道・無鉄砲な発言と行動で
「無茶やってんなあ」と笑ってしまう破天荒な部分と
人が人として当たり前に悲しいとか楽しいとか思うことを
さらりと素のままで差し出す叙情的な部分とが
奇跡的なバランスで成り立ってる作風で
作品によってどちらかの傾向が強くなるんだけど、
この「上京ものがたり」は圧倒的に後者。
等身大の叙情性を描かせたら今の日本ではこの人に勝てる人はいないのではないか?
僕はずっとそう思っていた。
最近漫画そのものをあんまり読まなくなって
漫画界がどうなってるのか、西原理恵子がどんな感じなのかもよくわかってなくて、
久し振りに買ったのが「上京ものがたり」
毎日新聞で連載されててずっと読んでいた
毎日かあさん」が本になったというのでそのついでに買った)
いやーこの人はまだまだ全然いけるね。


僕の中では学生時代、岡崎京子と並ぶくらいに大好きで、
上京して11年、あれだけ何でも出会えてその気になればたいがいのものが手に入る東京で
サイン会というものに行ったのは後にも先にも西原理恵子リリー・フランキーだけ。
あれは僕が大学2年の夏で、吉祥寺パルコの地下のパルコブックセンターが会場だった。
寮の友人クラPから整理券をもらったんだよな。
3人掛けの長い机には真ん中に西原理恵子、その両隣は金角と銀角が座っていた。
僕は「まあじゃんほうろうき」の2巻を差し出して、例の鳥を書いてもらった。


僕が上京したときがちょうど西原理恵子近代麻雀に連載をもち始めた頃で、
ものすごく絵の下手のときから「なんだこりゃ?」と思いながら読んでいた。
(僕らも「棒テン即リー全ツッパー」とか言いながら麻雀を打ってたんだよな)
それがどんどん絵に勢いが出てきて(ついでに麻雀にもセオリー無視な勢いが出てきて)
作風が完成されると一般紙で「ちくろ幼稚園」や「恨ミシュラン」の連載が始まって。
その後は飛ぶ鳥を落とすかのように一躍時の人に。
その漫画を見ない日はなかったぐらい。


僕が会社に入った頃がやはりちょうど西原理恵子結婚の辺りで、
そこからしばらくリアルタイムでは読まなくなった。
あまり仕事をしてないブランクの時期がどこかにあったはず。
今思えばこのとき、その突出した叙情性が完成したのだと思う。
家族を持つことによってなのか、それとも世界のあちこちを見て回ったためか。

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今回買った2冊のうち、ギャグ漫画として面白いのは「毎日かあさん」の方。
テーマは子育て。
やっぱりやってることは無茶苦茶なんだけど、ときどきほろりとさせられる。