本を出します その8

昨日、出版社に行ってきた。
本の装丁に関する簡単な打ち合わせと、初稿のゲラを受け取るため。
会社を休んだのはわざわざこのためだったりする。

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日比谷で映画を見た後で神保町に移動。
神保町と言えばカレー。
打ち合わせまで時間があったため、
持参してきたカレーのガイドブックで見つけた「さぼうる2」という店に入る。
古びた喫茶店なのであるが、有名なようで1時を過ぎていたのにほぼ満席。
僕の後から来た人は入れなくて外で待っていた。
専門店ではないためカレーのメニューはビーフカレーのみ。
出てきたのはいかにも喫茶店で出てくるような煮込んだカレー。
凝ってるところはなく、いたって普通。なのにうまい。
毎日食べてもいいぐらいうまい。味が完成されている。
学生街であるためかご飯は大盛りで生野菜のサラダがついて
それでも650円という値段の安さも魅力。
神保町に来る時は次もここで食べようと思う。
なお、この店はカレーで有名というよりはナポリタンで有名なようで、
ナポリタンを食べている人が多かった。
「取り上げられてますよ」ということで壁に飾られていた雑誌も
ナポリタンを取材したものだった。

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いつも行く店でSFの文庫を買う。


フィリップ・ホセ・ファーマーが「キルゴア・トラウト」名義で書いた
「貝殻の上のビーナス」を見つける。1780円。
キルゴア・トラウト」ってカート・ヴォネガット
「スローター5」といった作品の中で登場人物として出てくるSF作家。
フィリップ・ホセ・ファーマーが何故にこの変名を使うことにしたのかは分からないが、
とにかく珍品。前から入手したいとは思っていた。
(読みたいと思っていたわけはない)


他に買ったのはオラフ・ステープルドンの「オッド・ジョン」など。
SF以外ではちくま文庫の「ベスト・オブ・サキ」2冊。

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出版社へ。


編集の方とデザイナーの方と3人で打ち合わせ。
編集の方はこれまでメールでは頻繁にやりとりしてきたが、お会いするのは初めて。
(最近ではタイトルをどうするか、あーでもないこーでもないとひたすらダメ出し)
一応装丁に関するお話ということになっていたのだが
実は会って話さなくてはならないものということでは決してない。
でもどっかのタイミングで1度ぐらい
お会いした方がいいのではなかろうかと思って会いに行くことにした。
このままだと1度も編集の人に会うことのないまま本が出来上がるということになりかねなく、
そういうのって「いいんだろうか?」と僕は思っていた。古いタイプの人間ですね。
お互い顔を知ってると何がどうというわけでもないが作業しやすいだろうっていう。


編集という作業は定型化されているのだろうから、
既に原稿が出来上がっているものを本にする場合
作者と顔つき合わせて話し合わなきゃならない物事ってのはそんなにない。
遠隔地に住んでいる作者の場合、
メールと電話と宅配便で全て完結する(させる)のではないだろうか。


デザインどうしますかねえというのがテーマで、
こういうイメージってのがあったら考えといてくれませんかってことにはなっていたものの、
僕の中では確固たる「これだ!」というものはなし。
メールでやりとりしてきた中で僕が言ってたのは
クールで知的でサブカルっぽいものをってことで、
そんなの「どんなんだ?」って自分でも突っ込みを入れたくなる。
個人的には抽象的なデザインにしたいのだが、そんなの売れるわけないしなあ。
しかもタイトルとも内容とも無縁。


やはりその場で「どういうのにしますか?」と聞かれるものの返答に困ってしまい、
ではどういうのが好みですか?という質問になる。
映画がお好きなようなので映画監督で言えば、、、と聞かれ、挙げたのが、
タルコフスキー、アントニオーニ、最近だとコーエン兄弟、ソダーバーグという
答えられた方でもどうにも困ってしまうような組み合わせ。
「まあ、じゃあ、スタイリッシュなもので・・・」というところに落ち着く。
(もうこの時点で打ち合わせるまでもない結論に全てが進んでいく)
全体的な雰囲気としては、「映画のチラシっぽく」で決まる。


次は表紙。
僕はサハラ砂漠かモロッコの旧都市の迷宮がいいのではないかと前から提案していて、
これはサハラ砂漠の方がいいでしょうということになる。
僕が撮った写真をもとに、加工するかイラスト化される。
その元になる写真をどれにするか、これがいいだろうか、あれがいいだろうか、と選定を行う。
砂漠と青空の比率。砂丘のなだらかさ/凸凹の密度。ラクダはいた方がいいのかどうか、など。
字体は「・・・少なくとも明朝体ではないですよね」ということでデザイナーにお任せ。
表紙の紙質も光沢のあるツルツルのものか、それとももっと紙っぽいものとするか選ぶ。
他の本を見本に、あれこれ決めていく。
難しいもんだ。最初、編集の方から「こちらでデザイナーとお任せってことでいいですか?」と聞かれ
いやいや僕も関わりたいと答えたものの、
何の具体的なイメージもないまま臨んでしまうと冷や汗をかくことばかり。


とりあえずデザイナーの方に案をいくつか作成してもらうことになり、
しばらくはその結果待ちとなる。
デザイナーの方に「よろしくお願いします」とペコペコ頭を下げる。


編集の方と2人きりとなり、その後は帯に記載する文章と初稿の手直しの話。


帯の内容について「これでどうですか?」と提示を受ける。帯?
そうかあ、そういうのも決めないといけないのだなあということに思い至る。
普段単なる読者として本屋で手に取る時には何も考えず目にしてるわけだけど
ここって重要なものなんですよね。
たまたま手に取った人が興味を持つかどうか。
中を開き、ところどころ読んでレジまで持っていくかどうか。
「あおり」という帯の見出しにあたる部分、
「リード」という帯の本文にあたる部分、この2つは編集の方が作成し、
裏の内容紹介部分は旅行記からの抜粋になっていた。
「あおり」は「でも、また僕は旅に出るのだ、きっと」とあって
これはちょっと恥ずかしいかなとも思ったのだが、
自分で考えてもだいたい同じものになるのでこれでいくことにする。
「リード」は「うーむ」と再検討。


受け取った初稿のゲラは手書でびっしりと修正事項、質問事項が記入されていた。
ゲラとは出来上がった本と同じようにページを組まれた試し刷りみたいなもので、
A3サイズの用紙に実際の本の大きさで線が引かれていて、
前後左右に余白が取ってあり、ページ番号も振られている。目次や奥付もある。
ページによっては写真も貼り付けられていて、
素人の僕からすれば本はもう出来上がったかのような感じがする。
「ほー・・・」とも「はー・・・」ともなんとも言えない感慨深い思いでいっぱい。


ページ数は271もあって、これを今から2週間以内にチェックしなくてはならない。
表記の統一から文章の間違いまで。
本文と赤入れされた個所を全部読んでどうすべきか決めていく。
A3サイズともなるとずっしりと重くて、それだけでも気が遠くなる。
当分会社の昼休みはずっとこの作業だな、と思う。
後書きや著者の紹介も書かなくてはならない。
後書きは6ページ分スペースがあって、さあて何を書こう?と楽しくもあり怖くもあり。


(校正作業には今日の昼休みから取り掛かっているのだが、実際これは大変な作業だ)

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なお、タイトルは
「突然ですが、僕モロッコ行ってきます」に決定。
サブタイトルは「サハラ→ドバイ 旅日記」
発売日は5月20日の予定。