「サイドウェイ」

金曜の夕方、会社から出ようとしたらばったりクリス君と会う。
「3連休暇ですか?だったら映画見に行きましょうよ」ということになる。
クリス君がその時見たかったのは「ローレライ」か「エターナル・サンシャイン」で、
僕が見たかったのは「サイドウェイ
そんなわけでじゃあまず1本目は「サブウェイ」にしましょうと決まる。
2本目は「ローレライ


お台場のメディアージュに行けば両方見れることがわかり、
11時の初回を見た後、14時の回を見てそのままお台場で食事という
無駄の無いスケジュールが出来上がる。


メディアージュではJCBのカードを見せると1本につき300円引きなのだという。
2本で600円。これは大きい。
普段は100円割引程度のクーポン券ならばめんどくさくて使わない僕でも
これは利用しないとなと思う。
クリス君曰くけっこうこのサービスを行っているところは多いとの事。
知らなかったな。もしかしたらシネコンのほとんどで導入していたりするのか。
だとしたらこれまでかなり損してるな。

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サイドウェイ
舞台はカリフォルニア。
人生も下り坂に差し掛かった2人の中年男性が主人公。


【マイルス】
 ・小説家志望。書きあげたばかりの大作がようやく出版されるか?という時期。
 ・普段の仕事はしがない中学校の英語教師。
 ・2年前に妻と別れ、そこからずっと落ち込んで悶々とした生活を送っている。
 ・ワインにやたら詳しい。
【ジャック】
 ・職業は俳優。昔はドラマ出演があったりで華やかだったけど今はCM出演ぐらいしか仕事が無い。
 ・一週間後結婚することになっていて、マリッジブルー
 ・妻の父が不動産業をやっていて、手伝わないかと誘われている。
 ・自分はかっこいいという強い自信を持っていて、女をナンパしてヤルことしか考えていない。


こんな2人がジャックの独身最後の1週間を祝して2人だけで
あちこちドライブしてワイナリー巡りとゴルフ三昧を楽しもうということになっている。
映画はそこで巻き起こる等身大のごくごく小規模なてんやわんやを描いている。
というかただそれだけ。
途中出会ったワインに詳しい女性2人とうまくいったりいかなかったりという様子がメインに据えられる。


話を要約してみてもどうにもパッとしなくて淡々としてそうなのだが、
これがまたものすごく面白い。言葉では伝えられない面白さ。


そもそもこの2人の人物造形がうまくいってるところがポイントか。
僕が上で挙げたような性格ってかなり細々としたものになるんだけど
これって僕が分析しながら見てたわけではなくて見てたら誰でも指摘できるようになっている。
つまり、登場人物がリアルに描けている。素直にスッと伝わってくる。
演じた2人もそれぞれ成りきっていた。
マイルス役のポール・ジアマッティは「アメリカン・スプレンダー」の主人公ハービー・ピーカー
強烈な印象を残していたのに、僕は見ててそのことを思い出さなかった。
あとでパンフレットを眺めてて初めて知った。それぐらいマイルスに徹していた。


女性2人もリアルなんだよな。
夜を過ごすために訪れた部屋に置かれた小物とその散らかし具合とか。
今でこそウェイトレスだが将来はワイナリーで働くために週に2回学校で学んでいるとか。
そもそも「美人じゃなさ加減」のリアルさとでも言うべきか。
男性側主人公が思いを寄せることになっているとしたら
たいがいの映画ではきれいな人をキャスティングするところを、
この映画では「うーん、まあ、きれいな方ではないか」ぐらいの人を持ってきてしまう。


アメリカの30代後半の人たちってこんななんだろうな。アメリカに限らず日本でも。
とにかく思うのはそういうこと。
若い頃は成功を夢見て、それなりのものを手にしたり失ったりしていく中で
そこそこのポジションに落ち着いてしまう。
それを黙って受け入れるか、もうちょっとあがいて見せるか。
・・・身につまされてしまう。

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この映画はかなり秀逸な作品で
僕の中では今年見る映画のベスト5にまず間違いなく入るはずなんだけど
その面白さを伝えられないことを歯がゆく思う。
これまで書いてきたことを読み返してみても
「いや、そういうことじゃないんだよなあ」と頭を抱えてしまう始末。


この面白さの感覚ってアメリカの現代文学を読むのと一緒なんだろうな。
その魅力(ムードやトーンと言ってもいい)の質感には
同時代の文学につながるものがあるはずだ。
他にはなくてこの作品だけが持つ「輝き」ってやつ。そうとしかいいようが無い。


こういう作品がアカデミー賞の作品賞や監督賞にノミネートされて
脚色賞を獲得するのだから、アメリカの映画界は非常にまっとうだ。


お台場のメディアージュの日曜の初回で客は10人程度。もったいない。
「なんか面白い映画やってないかなあ」
「だけどゴテゴテしたアクション映画も食傷気味だしなあ」
「人間をうまく描けたコメディをどこかでやってないかなあ」
なんて思っている人は絶対観たほうがいい。