金曜の夜、中央線の終電にてとりとめのないことを考える

仕事が終わってから会社の人たちと新橋で焼肉を食べて、その後白木屋で飲んでいた。
終電だと思って先に帰る。
危機一髪、中央線の終電だった。武蔵小金井行き。空いている座席があったので座った。
酔っている。それでなくても眠い。
文庫でSFを読んでいて、水道橋の駅を通過したところまでは覚えていたが、その後記憶なし。
目が覚めたら中野。
ものすごく長い間眠っていたように思っていてもそんなに時間が経過していなかった。
不思議だなあと思う。こういうことってうまくは言えないが、「不思議だなあ」と思う。
中野から高円寺の駅に行くまでの短い間にまたしても眠ってしまい、
高円寺から阿佐ヶ谷に行くまでもやはり眠ってしまう。
その都度目を覚ます。
これはやばい、武蔵小金井で「終点ですよ」と起こされたら困ったことになると
がんばって起きていようとする。睡魔との闘い。
傍目にはぼけーっと座っているようでいてその人の中では壮絶な戦いが繰り広げられている。
案外そういう人が多いのかもしれない。
終電車に乗っているあの人、この人。
バイト帰りの学生や飲んで帰って来た会社員や、その他半数以上の何してるのかよくわからない人たち。
終電で間に合うようにそれまでいた場所を離れ、終電に乗ってまた別な場所へと向かう。
自分の家なのか、友達の家なのか、それとももっと別な何かなのか。
世の中には眠らない人間がいて、仕事もしてなくて、実は人間ですらなくて、
ただただ移動のための移動を続けている、刻一刻と移動し続ける、
宇宙から来たとか別な次元とか未来から来たとかで
今この2005年4月16日午前0時52分を「僕ら」の監視・観察のため過ごしている、
そんなのがこの終電に1人ぐらいは紛れ込んでいる。
というようなことを考える。阿佐ヶ谷から荻窪までの短い間の、さらにその一瞬の間に。
その宇宙人かなんかは着ていた服を脱ぎ捨てさらに肌色の皮膚を脱ぎ捨て、
緑色のゼリーみたいなものや、ピンク色のトカゲみたいなものとなる。
アパートの一室で。
僕の住んでいる部屋からそんなに遠くもない、隣の番地のアパートの一室で。
そしてそのことを誰も知らない。
家賃を払い、コンビニで食料を買って、テレビをつけて深夜の番組を見る。
煙草を吸って、缶ビールを飲んで、携帯でメールを送る。
実はそれは「携帯」ではなくて母なる星との通信機だ。
アンテナが4本立ってるとき、送受信が可能となる。
だけど地上では電波が弱くて、地磁気の影響で安定した場所がなくて、
彼か彼女かそいつかは常にアンテナが4本立つ場所を探していなくてはならない。
「大事な情報を転送しといたのに何で見てなかったんだ!」と後から怒られることもあるかもしれない。
そのたびに赤か黄色のそいつは「すいません」と謝る。
日本語か、地球上のその他の言葉か、あるいは自分たちの星の言葉で。


金曜の夜、中央線の終電にてとりとめのないことを考える。
一週間の仕事を終えて同僚たちと飲んで楽しい時間を過ごして、明日は土曜で休みだ。
それなのに僕は地球に潜入している宇宙人のことを考え、
その一方では荻窪を寝過ごして西荻窪や吉祥寺に行ってしまわないために
身動きの取れないまま苦労していた。
今この2005年4月16日午前0時52分は過ぎ去っていって
また新しい瞬間が生まれては消えていく。
たくさんの人々を乗せて中央線の終電が走り去る。
吐き出された僕はホームに降り立って階段を下りていく。