青森帰省3日目(「津軽」を訪ねて)⑥油川〜蓬田〜油川

後は帰るだけ。
前回も道に迷ったが今回も道に迷った。
しかも同じような場所で。この辺の国道は非常に分かりにくい。
県道36号線で下っていって五所川原に入った辺りで(同じく県道の)26号線に入れば
そのまままっすぐ東に進んでいくだけで油川に到着するはずなのであるが、
そもそも自分が今どこを走っているのか分かりにくくて、
36号線に乗ってるのかどうかすらわからない。地元の人でないと。
前回同様どうも隣を平行して走っている国道339号線を走っていたようで
「これはどうやって26号に入ったらいいんだ!?」と地図を見ながら行ったり来たり。
(後から振り返ってみて)一番やっかいな・ややこしい箇所に差し掛かる。
左が金木で右が青森と書かれた掲示があって
金木から来たんだから右だろうと曲がっていくとそれが間違いで
そのまま進んでいくととんでもない方向(弘前方面)に行ってしまう。
ここは左の金木の方に折れるのが正解。
でも心情的にどうしてもその選択ができないんだよなあ。とっさには。


26号線は県道というよりは農道や林道と呼んだ方がよさそうな
山間部をむっつりと進む裏寂れた道路である。
日も全然当たらない。溶けきらない雪がそこかしこにベターッと残っている。
行き交う車もほとんどない。
津軽半島を横断するのだから便利そうな存在に思えるのに、あまり利用されていない。
夕暮れ時。空は少しずつ少しずつ暗くなっていく。
木々の間を走り抜けるのでさらに暗く感じる。
油川に出る頃には夕闇も半分ぐらいとなる。


家に帰りつくと玄関にて出迎えた母曰く、蓬田のおばさんからさっき電話があって
カニ(毛蟹:トゲクリガニ)をもらったから取りに来なさいって。
今から車で蓬田まで行ってくれない?
僕自身は毛蟹がそんな好きではないのでめんどくさいし、
だけどケンが行ってもいいというので車に戻って蓬田へと向かうことにする。
戻ってくる前に携帯にかけてくれたらよかったのにと僕が母にブーブー言うと
かけてもつながらなかったとのこと。
たぶん26号線を走っていたときのことなのだろう。
朝と同じように陸奥湾沿いに国道280号線を走る。
夕暮れも終わり近く。建物は全て濃い青の中に溶け込んでいる。
奥内、後潟。この辺はまだ青森市の範囲だ。
そろそろかなと思ったところでケンにゆっくり走ってくれと頼む。
蓬田に入っておばさんの家が見えてきてもいい頃なのに記憶の中にある家が見つからない。
気が付くと蓬田の役場や駅を通り過ぎていて、そんなはずはないと思う。
母に電話をかけて、おばさんの家がわからなくなったので
おばさんに家の前で立っていてもらうようにお願いする。
ここ何年かは訪れていない。様子が変わっているのかもしれない。


引き返してゆっくりと走っていると
真っ暗な国道に面しておばさんが塀にもたれて立っているのが見えた。
車を敷地の中に入れる。
おばさんはさらに小さくなったようだ。
「年を取ったから驚くよ」と母は言っていたが、その通りだった。
僕らはおばさんと呼んでいるが、母の母の姉なのであるから、もう相当な年だ。80近い。
何年か前に手術をしていて、声があまり出ない。
しわがれた声で「よくきたな」と言われる。
家に入って腰を下ろすと長居してしまうので玄関先でカニを受け取るだけにする。
缶の十六茶をケンと僕と2人分もらう。
僕らが車を出すとおばさんは長いこと手を振っていた。


帰りは280号線ではなくて、バイパスを通ることにした。
油川から蟹田まで280号線と並行して走っている。
一直線でかなりスピードを出していける。ただし周りには田んぼしかない。
朝もここを通ってくるのでもよかったのだが、ドライブって気分ではなくなる。
青森市に向かうか蟹田から先に向かう人たちが無言でスピードを上げていく。


夜はケンと母と3人で食事に行くことになっていた。
油川にもイタリア料理の素敵なところができてね」と母が言う。
「へぇー」と思う。そうは言ってもまあそんなたいしたことないだろうと
たかをくくっていたら、行ってみたら青森とは思えない、
東京から切り取って置いたかのようなしゃれた店で驚いた。
若い夫婦2人だけで切り盛りしている。
東京で修行して戻ってきて、去年店を出したようだ。
前は蕎麦屋だった。両親がやっていた店を畳んで、息子が新しく何もかも作り変えたと。
(ここに以前蕎麦屋があったかどうかの印象はない)
何よりも内装がすごい。どこで誰に頼んで作ってもらったのだろう?
まるで青山か西麻布のよう。
椅子やテーブルもカラフルなデザインで、まあ少なくとも青森では入手不可だろう。
音楽もクラブジャズ系のがかかっていて、これだって恐らく青森のCD屋では見つからないもの。
東京の友人に送ってきてもらったものだろうか?
後で支払いの際にちらっとレジの裏を見たらCD−Rが積まれていた。


ワインをデカンタで頼んで僕1人がグイグイと飲む。
3000円のコースは東京では5000円から7000円は取られそうな、
ありえない分量のものだった。
前菜は5種類。自家製のパンに生ハムを添えて食べる。
ホタルイカのパスタにニョッキをホワイトソースで。
本日の肉料理はチキンのバジル風味。
(正直、酔っていたからメニューをあまり覚えていない)
デザートのクリームケーキもアイスもみんな手作りなんだろうな。
若い夫婦2人だけで全て仕込んで。たいしたもんだ。
店の名前は「アデッソ
口コミだけで客が増えているのだという。ホームページなどで宣伝したりはしない。
妹が評判を聞いて、母を連れてきてランチを食べた。
こういう店には頑張ってもらいたいもんだ。
来年の今頃も店はあるだろうか?
あることにはあるけどテンションが落ちてるようなことはないだろうか。
青森にありがちなケース。最初だけ。
でもこれで1年もってるみたいだからな。
店のテーブルは全て埋まっていたけどみんなコースで頼むから回転は悪い。
それでいて値段が安い。儲からないんじゃないかと余計な心配をしてしまう。


ケンはつい3週間前に披露宴があった。
奥さんを青森に呼び寄せることを考えていたのだが、
突然の人事異動で東京に戻ることになったようだ。
当初の話ではあと3年は青森にいるはずだったのに。
そんなわけで青森には5月・6月のあと2ヶ月いるだけ。
6月には奥さんを連れてきて1ヶ月暮らして青森をあちこち見て回る。
白神山地をまだ見てないんですよねえという話になると
登山好きな母の目が輝きだす。
僕を相手にそういう話は一切しないので、
ケンが多少青森の山と温泉に興味を持っていることを知ると
あの山はああでこうで登ったときはああでこうで
あの温泉はああでこうで近くにはあれがあってこれがあってと止まらなくなる。
例えばこういう話。
白神山地と言えば西側、西目屋村から入るルートが一般的であるが
それ以外にも登山者向けのルートがいくつかあって、
黒石市の人たちがボランティアで管理している一帯を去年歩いてきた。
きれいに手入れされていて、なぜかそこは下草が生えていない。
幻の県道を歩くという趣旨のハイキングで、
黒石市南部の六郷地区から県内では温泉で有名な、八甲田山の城ヶ倉までを歩き通す。
15キロはあるだろうか。
津軽と南部とを結ぶものとして14世紀にはこのルート既にあったようで、
1930年には秩父宮が行軍されたのだが、
その後第2次大戦のゴタゴタもあり、結局は整備されないままとなってしまった。


店を出たのは21時過ぎ。
夜も遅いし家に泊まっていけばどうかと母は言い、ケンもそうすると言う。
ケンと2人で銭湯に行く。帰省すると毎晩行く油川温泉。
もちろん昨日も一昨日も入りに来ている。足を伸ばして風呂に入れるのは気持ちいい。
店じまい前の時間だったようで銭湯の人が排水溝や床を洗っていた。


家に戻って、冷蔵庫にあったものをつまみにケンと飲む。
将来のことなど話す。
今でも覚えているのは三沢のスナックの話。
土日に1人で飲んでいても味気ないとき、
独身寮の他の人たちは余り飲まないので
ケンは地元のスナックに飲みに行った。
そういう店で働いている女性たちは水商売だけで暮らしているのではなくて、
ほとんどみんな昼間の仕事を持っていた。
昼間の仕事だけでは食えなくて、夜の仕事だけでも食えなかった。
三沢には女性の求人がなく、あったとしても契約社員だったり、給料が安かったり。
夜の仕事も時給1000円とかそんなもの。週に3日ほど働く。
なので昼は保母さんです、というような女性が化粧をして三沢のスナックで働いている。
恐らくたいして娯楽施設のない(と言ったら失礼か)三沢には
東京や青森ほどじゃないにせよたくさんのスナックがあって、
女たちはそこで働き、男たちはそこで金を落としていく。
三沢に限った話ではない。津軽半島でも、青森県全域でもだいたいそうだろう。
今日回ったあちこちの観光施設やお土産屋のいくつかでは
割ときれいな女性が暇そうに与えられた仕事をこなしていた。
彼女たちは夜は地元のスナックで働いているのかもしれない。
もしかしたら結婚していて仕事を終えると普通の主婦なのかもしれない。
青函トンネルの底で観光客相手に毎日毎日同じことを話し続けているきれいなガイドの人が
夜は地元のスナックで働いているとしたらこんな侘しいことはない。
本州の最果て、竜飛岬で。


昨日・一昨日と僕は1人で部屋で飲んでいた。
結婚式の引き出物でどこからかもらったという焼酎があった。
ケンが泊まることが分かっていたなら残しておいたのだが、
1人でほとんど空けてしまっていた。
壜は珍しい形をしていて、
底の方に切れ込みがあって2人の挙式を記念するカードが挟まれていた。



太宰治の「津軽」を求めてドライブした一日もこれでおしまい。


最後に。
平成の大合併にて3月から4月にかけて
青森県の中でも大幅に地図が変わってしまった。
今日回った所でいえば、
・金木町、市浦村五所川原市 → 五所川原市
三厩村平舘村蟹田町 → 外ヶ浜町 (今別町を挟んで飛び地となる)
・中里町、小泊村 → 中泊町
青森市、浪岡町 → 青森市