今PJではやっているもの

こういうものがある。
「ハンドエクササイザー」
ブランド名は「Thera-Band」
パッケージの裏面にはこういうことが書かれている。
「セラバンド ハンドエクササイザーは、握ったり・指で掴んだり・転がしたりする
 エクササイズで手・指・前腕部のリハビリや運動能力の向上及び、
 握力強化や血行促進などに効果的です。指先の運動は脳に刺激をあたえます。
 リラクゼーション、ストレス解消などにお役立てください」


素材 特殊ポリウレタン


カラー  抵抗力
イエロー 約0.6kg
レッド  約1.3kg
グリーン 約2.2kg
ブルー  約3.6kg
ブラック 約4.5kg


MADE IN U.S.A.

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どういうものなのかイメージが湧くだろうか?


早い話がゴムボールである。
使用方法としては・・・、
色のついたボールを握ってる(もっと正確に言うと「にぎにぎしてる」)、
ただそれだけである。


これが、お客さん、関係ベンダー含めてプロジェクトで大流行となる。

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始まりはプロジェクトの先輩、キムさんだった。


僕が今のプロジェクトに配置されて、もうその日から常駐することになり、
ノートPCを持って有楽町の顧客のオフィスに向かうと
キムさんが握っていた紺色のボールを、
お客さんのAさんが「それちょっと貸してくださいよー」と奪っている場面に遭遇した。
「・・・?」と思う。
打ち合わせに出ると、Bさんが「私も買いましたよ」と別な色のボールを握っている。
「黒はさすがに硬いですね。一日握ってると手が痛くなってきますよ」


常駐先のプロジェクトルームは一人一人に机が割り当てられているのではなく、
大きな円いテーブルをシェアして使っていたので
気が付くとこのボールが目の前を転がっていることがたまにある。
目の前にあると無意識のうちに掴んで握ったり軽く投げたりしながら仕事することになる。
ないと物足りなくなる。
イライラしてくると、「ボールは!?」と言い出すようになる。日によっては奪い合いになる。


お客さんとの半ばくだけた打ち合わせとなると、
あーでもないこーでもないと頭/口ではまじめな討論を交わしつつも
体/手の次元ではボールが主体となっている。
座って話しつつも「貸して」と言われてボールをそっと投げたり、
軽く投げ上げて落ちてきたのを掴んで、というのを繰り返しているうちに
テーブルの下に落としたのを誰か他の人が拾って渡したり。


気が付くと僕らやお客さんだけでなく、関係するベンダーたちもボールを買い始めていた。
打ち合わせに出ると何気にみんな(というほどでもないが)持っている。
持ってることが「プロジェクトの一員」みたいなことになってきた。
とあるベンダーは最近はやりの中国で開発ということになったのだが、
ボールは担当者とともに海を渡り、
その人が中国から帰ってくるとお土産として中国で売られている類似品をもらった。


僕らの机の上には赤や黄色のボールが転がり、絶えず握られている。
これは怪しい。はっきり言って、新興宗教の初級イニシエーションで使われている洗脳用具っぽい。
あるいは、チタンのベルトみたいなものだ。


お客さんのオフィスでももしかしたらじわじわと全般的に浸透していて、
プロジェクト外の人たちにも広まっているかもしれない。
(僕らよりもお客さんの方が購買率が高かった)
とある会社の人が打ち合わせに出かけたらみんながボールを持っていた、
しかも人によって色が違う、なんてことになっていたら
「いったいなんなんだ、この会社は」と不思議(というか不審)に思うだろう。


キムさんは有楽町のビックカメラの健康器具コーナーで買ったという。
最初のうち、僕は購入を拒んでいただけど常駐期間が過ぎて自社に戻ってくると
なぜかいてもたってもいられなくなり、結局軍門に下ってしまった。
キムさんに買ってきてもらった。しかも赤と黄色で2つも。
(一番柔らかいとされる黄色はぐにゃぐにゃとグミのような触感でちょっと気持ち悪い)


プロジェクトが無事スケジュール通りにカットオーバしたら、
最もその貢献を果たしたものはこのボールということになる。まじで。
コミュニケーションの道具となり、ストレスの解消にもなり、
とにかく「このボールで我々は日々癒された」と主張することになるだろう。
噂が広まって自発的にこのボールをみんなが買っているか、会社から支給されるか。
そんな日がいつか来たりして。