「ハチミツ」(準備稿③)

※クマ不在。


オフィスの光景。[オフィス全体が映るようなショット]


(A)会社で仕事をしている。オフィス。忙しそうだ。
内線が鳴る。(A)内線を取る。話し始める。


会議室。(A)は前に立って、ホワイトボード前にて会議を仕切っている。

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昼休み。


(A)は会社の同僚と外で弁当を食べている。


同僚 「なあ、最近どんなん書いてん?」
(A)「どんなん・・・、失踪した友人が残したビデオレターを、
    そいつの恋人に届けに行く話」
同僚 「ふーん。何枚ぐらいになるの?でけたら応募とかするん?」
(A)「コンテスト、出すよ。今年は勝負の年だから」
同僚 「勝負?負けたらどないするつもり?」
(A)(笑いながら)「・・・嫌なこと言うなよ」


(会話の間、ペットボトルのお茶を飲んだりする。
 同僚は煙草を吸ってたりするといいかもしれない)

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(A)の部屋。(A)は机の上のPCに向かっている。キーを打ち込んでいる。
Tシャツに短パンといったようなラフな格好で。


[画面には、文字を大きく映す]
「彼はそのビデオテープをデッキに入れて、再生ボタンを押した」

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[ビデオの映像に切り替わる:
 ざらついて、にじんだ、昔のビデオ特有の質の低い映像となっている]


(C)が目の前に置かれたビデオカメラの位置を調整する。録画ボタンを押す。
(そのため、手のアップが映る)


部屋の奥に立って、笑顔を浮かべながら、話し始める。何もかもがぎこちない。
「えー、あー、(咳払い)今から僕はモロッコに旅立ちます」
(そこから先、言葉が続かなくなる。照れ笑いを浮かべる)


(C)はカメラに近付いて、いったん停止ボタンを押す。
画面が暗くなる。


(C)が録画ボタンを再度押したところから再開される。


部屋の奥に立って、笑顔を浮かべながら、話し始める。同様にぎこちない。
「えー、今から僕はモロッコに旅立ちます。
 初めて行く場所です。サハラ砂漠を見に行きます。これは小さな頃からの夢でした。
 砂漠を見たら、人生観が変わるかもしれません。変わらないかもしれません。
 とにかく行ってみようと思います。
 これから僕は行った先々でビデオを回して、僕が見たものを残そうと思います。
 (言葉に詰まる)
 えー、人生は旅のようなものです。僕はずっとそう思ってきました。
 旅に例えられないような人生であるならば、その人の生涯はつまらないものだと思っています。
 あー。言いすぎかな。
 とりあえず今から出発します。荷物も全部詰めました。
 (傍らに置いてあった大きなリュックサックを拾い上げて、カメラの前にかざす。
  そしてそれを背負う)
 じゃあ、今から旅の始まりです」


(C)はカメラに近付いて、いったん停止ボタンを押す。
 画面が暗くなる。


[キーボードを打つ手のショットに、モロッコの映像をオーバーラップ]
夜、マラケシュのジャマール・エル・フナ広場の屋台から市場の中へという視線ショット。


[PCのスクリーンに映し出される文字に、モロッコの映像をオーバーラップ]
「そして彼はガイドの運転する車に乗って、サハラ砂漠へと向かった」
サハラ砂漠ジープが疾走するショット。


[視線ショット]
真昼のサハラ砂漠の映像。


[PCのスクリーンに映る文字]
そして彼はサハラ砂漠の中に一人で立った。


書き終えた(A)は立ち上がり、ベッドの方まで歩いていって、
疲れたようになって身を投げ出す。
(A)はぼんやりと天井を眺める。
その側にはクマが立っている。