一人きり

土日家にいると、誰とも、一言も話すことなく終わってしまう。
あったとしても外に食事に出かけてメニューを口にするぐらいだ。
それだってメニューを指差せば事足りる。
コンビニで「おハシはおツケしますか?」と聞かれても首を振るだけでいい。
人と会話をする必要性や機会なんてものはない。
無言で過ごせる。無言で過ごしている。
誰かと話したいという欲求を一切感じていない。
昨日の夜、ふとそんなことに気づいた。
当たり前すぎて、これまで気がつかなかった。


大学3年生のときに一人部屋の寮に移る。
ここから一人暮らしが始まったとしてもう10年近くそんな生活だ。


たかだかこれぐらいのことで「孤独だ」などと言ったりはしない。
(死と隣り合わせになるぐらいのことがない限り、使ってはならないと最近思う)


土日沈んでいるというわけではない。
プラスもなくマイナスもなく、ただ淡々と過ごしている。
適当な時間に起きて、買い物に出かけ、
夜は酒を飲んで、音楽を聴いたり、雑誌を読んでいる。
ただそれだけ。
ただそれだけの土日を会社に入ってからの7年間、ずっと続けている。
ただそれだけの土日のために平日の5日間を働いて過ごしている。
僕という人間はいったい何なのだろう?


人と話がしたくない、というのではない。
平日はいろんな人といろんなことを話している。笑ったりしながら。
「飲みに行こーぜー」とか言ったりもしながら。
だけどそれだとバランスが取れないようで、
僕はどこかで一人きりの時間を過ごさないとだめみたいだ。
(ここ何年か昼に社食で一人で食べているのも、一人きりになりたいからだ)


完全に無人の場所に居続けたら、いつか発狂するだろう。
常に人と接していて、見つめられ、返答を返していかなければならないのなら、
それはそれでまた発狂するだろう。
人間とは不可思議な生き物だ。
これって僕だけ?いや、そんなことはないだろう。


週末だけのプチ引きこもりってやつか。今の僕の状態は。


「なぜ彼女を作らないのですか?」と聞かれることがよくある。
その一番の理由がここにある。
一人きりになりたいときに一人きりになれる自由。
僕はそれを何よりも大事にしていて、
たとえ恋人であってもそこには触れてほしくないから。


その逆も言える。
誰もがそういう「一人になりたいとき」を抱えていたとしても、
みんな不器用なもんで、他人の「一人になりたいとき」をうまく扱えない。
たぶん僕も扱えない。
そういうのの摩擦が積み重なっていって、いつか破綻する。
それが目に見えている。
僕は臆病な人間だから、うまくいきそうにないなと思いつつも
そこに踏み込んでみる、ということができない。


「このまま一人でいいんじゃないか、傷つくぐらいなら」
そんなふうに思い続けて僕ももう30だ。
やり直しはきかない。
何もかもが取り返しのつかないことになってしまった。


今日はまだ月曜で、しかもまだ「朝」と呼ばれる時間帯だ。
これから長い時間をかけて僕は普通の人として振舞わなくてはならない。
苦痛でもないが、楽しいことでもない。


人はこんなふうにして、鬱になっていくのだろう。

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