「恋のマイアヒ」はどこから来たのか?

O-ZONE という旧ソ連の小さな国モルドヴァといから来たグループが
この夏全世界的にヒットを飛ばし、ここ日本でも「恋のマイアヒ」が大ヒットしている。
かわいらしい(?)猫が大酒をかっくらって
「飲ま飲まイェイ!!」と言っているフラッシュを見た人や
実際に曲をテレビやCDショップで聞いたことのある人も多いのではないか。


僕はまず初めに無音の環境でこのフラッシュを見て、「ユニークなものが出てきたなあ」と思った。
が、実際に音を聞いてがっかりした。ちっとも面白くない。
なんだこのたるいユーロエレポップ歌謡は!!
HMV のサイトでは Daft Punk が引き合いに出されていたが、
これはどちらかと言うと A-Ha, Roxette, Ace of Base の系譜に連なる部類だと思う。
そしてこれらの先達たちに足元も及ばない。
恋のマイアヒ」1曲を聞いただけでぶった切るのもなんだけど。


でも日本でも30万枚売って、オリコン(今変換したら「お離婚」と出た)のアルバムチャート1位。
洋楽男性アーティストによる 1st アルバムでのチャート1位は
72年のポール・サイモン以来実に33年ぶりであるのだという。
どんなDBでどんな検索条件をかましたらこんな些細なデータがピックアップされるのか。たいしたもんだ。
アメリカ大リーグの各種記録・試合結果を記憶しているプロ並みにニッチな情報。
(ちなみにこのポール・サイモンのアルバムには山崎まさよし「僕と不良と校庭で」の元ネタになった
「僕とフリオと校庭で」が収録されている。名曲です)


僕には何回聞いても普通のエレポップなんだけどなあ。
若い人たちの音楽を感じ取れなくなったのか。
それにしてもわざわざモルドヴァから出てきてこれか。
モルドヴァだからどう、ってのは特に無いんだけど。
民族音楽が基本に無いからダメ、東欧から出てくるグループはみな民族音楽を取り入れるべし
 という頓珍漢な妄想を抱いている人も世の中にはいそうだな)
若い人々を踊らせる・躍らせる・うっとりさせるための音楽ならば、
もっと世の中には先進的なスタイルがあるではないか。
ニューヨークで、ロンドンで、パリで、ベルリンで、東京で注目されている音。
それがモルドヴァには伝わってこなかったのか?
こんな要求を突きつけるのは酷か。
むしろ「よくやったね」と言ってあげなくてはならないのだろうか?


どうしてこういう音楽性なのだろう。
と考えていたときに思い出したことがある。
今から10年前にモスクワに滞在していたとき、いくつか当時はやりの音楽を聞いてみた。
どれもこれもつまらないエレポップだった。メロディーに抑揚が無くてサビも無い。
これと言って気持ちのいいリズムの反復も無い。
全部2世代前のシンセだけで作りましたっていう雰囲気の。
ウワモノのペラペラなギターもサックスも全てシンセで合成です、みたいな。
それでいて歌ってるのはどれもこれも男性も女性も美形。青い目のブロンド。ここ、ポイント。
ああ、10代の若い子のアイドルにさえなっていればいいのだな、とそのとき思った。
94年。旧ソ連が崩壊し、急速に西側の文化が流入するようになったとはいえ
まだまだ追いつけないんだろうなあと素直に感じた。
t.A.T.u が登場するにはさらに10年ほど待たなくてはならなかった。


旧ソ連の首都で10年前にはやっていた音がああなのだから、
かつて旧ソ連に属していた国が意識的に・無意識的に根深い影響を受けるのはいたし方の無いことだ。
なーんて僕は思ったのだが、実際のところどうなのだろう。


ではなぜ、モスクワでエレポップがはやっていたのか?
それはさすがにわからない。
ソ連邦崩壊前はギターもベースも非常に高価な楽器で、正規の値段で購入することは特権階級以外に不可、
闇で入手するしかないという状況ゆえにそっち系のロックが発展しなかったか。
興味があったのでいくつかモスクワの楽器屋に入ってみたが、崩壊後であっても
YAMAHAの日本での売れ残りみたいなごついギターが確か日本円にして10万円以上していた記憶がある。
弦まで太く見えた。
サンクトペテルブルクのデパートの楽器コーナーを眺めていたら袖を引っ張られ、
 このベースギターを買わないかと話を持ちかけられた。
 完全に手作り。ボリュームコントロールは薬の入ったプラスチックの容器の蓋と思われる。
 日本円にして5千円。これはいいお土産だと買って日本に持ち帰った)
ギターが無いからキーボードだというのも短絡的な考えなんだけど、
ピアノだったら割とどこにでもありそうでそこで下地が作られていたのではないかと。
違うかな。違うだろうなー。


モスクワのCDショップにて
小さいブースの中に My Bloody ValentineLoveless」のポスターを貼っていた青年は
今どこでどうしているだろう?
Loveless」を聞くことができただろうか。