火傷の話(続き)

性懲りもなく日焼け−火傷−水脹れの話を。
こういう話が苦手な人は、絶対読まないように!


会社を休んだ火曜、病院に行った後、新宿に出て買い物をして帰ってきたら
ジーパンの裾で摺れたのか水脹れが悪化、ってとこまでこの前は書いた。


その後、1日中気になるわけですよ。そわそわそわそわ。
グロテスクなので見たくもないのに、ひっきりなしに見てる。
せっかくの休みが台無し。
少しはしぼんだかなあ、固くなっていったかなあ。
期待に反してどんどん膨れ上がり、みずみずしくなっていく。
諦めきった僕は「育ってるなあ。ヘヘヘ」と心の中で笑う。


水曜は普通に出社。靴下履いて、靴履いて。
気が遠くなってくる。
摺れるんだろうなあ。痛いんだろうなあ。そして。
・・・破れるんだろうなあ。
それでも何食わぬ顔して資料を作ったり打ち合わせをしたり
周りの人にしょうもない冗談を言わなくちゃならないんだろうなあ。はあ。
靴下の中に毒々しい黄色い液体がじわじわと染み込んでいって
ところどころ水が溜まってテラテラと塗れて。
せめてそれだけは避けたい、と思う。心の底から。


夜、8時だっただろうか。
決心のついた僕は会社鞄のどこかで眠っていたソーイングセットを取り出して
マチ針を摘み上げると、台所に持っていってコンロに火をつけて炙り、
ユニットバスの洗面台に右足を乗せて、
ほっこり膨れ上がった水脹れに恐る恐る針を近づけて、
「せーの」と針を押し当てた。プスッという音が心の中でした。
チクッという痛みがする。
物理的にはたいしたことのない痛みなんだけど、
心理的にはものすごい、のた打ち回りたくなるような痛みに感じる。
あー、あーあーあー。
突き刺したはずなのに破れない。意外に皮は固い。
意を決してもう1回突き刺す。別な場所に。角度を変えて。
ちょろちょろと液体が染み出すようになる。ドバッと破れるようにはならない。
その後いくつか突き刺してみるものの、ヤツはなかなかしぶとくて破れない。
ここまできたら仕方がないとティッシュを水脹れにそっと押し当てて、
中の水を染み出させる。
さすがにしぼんでいく。・・・しぼんだ。
「勝った」
そのときはそう思った。


部屋に戻って机に向かう。
ヤツのことが気になる。ピリピリビリビリと痛む。熱も持ち始める。
もしやと思ってみてみるとヤツは膨らみ始めていた!
まだ10分も経過していないのに。
2時間もしないで復調。完全に膨らみきった。黄色く、ツヤツヤとしている。
「負けた」
思えば、2重の意味で。
ヤツの存在そのものと、せっかくの休みを結局ヤツの観察で潰してしまったことに。


それにしても素晴らしい生命力。
マジでなんか他の生き物に思えてきた。
でも僕の一部分なんだよなあ。
これぞ「自分との戦い」ってやつだ。


ぐったりきて寝る。

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次の日、水曜。
ソーッと、文字通り「腫れ物に触るように」恐る恐る靴下を履いて、
その上にというか周りに靴を履いて外に出る。
いつもと何かが違う自分。ゾクゾクする。
普通に電車に乗って、普通にコンビニに寄って、普通に会社に着く。
普通に仕事をして、普通に人と接する。普通に昼は社食で定食を食べる。
その間ずっと、ヤツのことが気になっている。
気になって気になって仕方がない。
昼休み。そっと靴下を見てみると、例の箇所がじわっと滲みになっている。濡れている。


破れたか・・・。
いっちゃったか・・・。


どれぐらい破れたんだろうな。ミクロな視点で言うと水浸しかな。
その後さらに気になる。仕事どころじゃない。上の空。
定時で帰って来る。


靴下を下ろしてみると、意外なことに破れてはいない。
ヤツは「やあ、僕、元気にしてたよ!」とでも言いたげに靴下の陰からコンニチハ。
僕は、「あぁっ」とか「うぅっ」とか「おぉっ」とが入り混じったような微妙な声をあげる。
しぶとい。それでも心なしか弱っているようだ。肌につやがない。
流れ出した液体は昨日針で穴を開けた箇所か。穴がふさがったかと思いきやそうでもない。
(というか冷静に考えて、雑菌が入って危ないのではないか。
 化膿止めのローションを朝晩塗ってはいるが。こんなことやはりするものではない)

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マジな話、まだ何日か引き摺るんだろうな。
以前ほどの若さもなく、「晩年」という風情を漂わせているが、
ヤツはメキシコにも同行することにもなる。
チクショー。そう思うとかわいいヤツ。