メキシコ(9/5)その12 メキシコシティ北部を走る


車に戻る。
北へ北へ進んでいく。
地上に出た地下鉄の駅が視界に入る。
オレンジ色の車両がホームをゆっくりと走っている。
メキシコシティの地下鉄は1965年、メキシコオリンピックを機にフランスの協力により敷設された。
どこまで乗っても2ペソという安さからか1日になんと450万人から800万人が利用する。
しかし、メキシコはますます車社会になりつつあり、
一家に1台と以前言われていたのが今や一家に2台の時代。
ますます排気ガス排出に拍車がかかる。
ナンバープレートの末尾によりこの曜日は走ってはならないという規制を打ち出しているが、
もちろん守られていない。
とにかく車の数が多く、運転も荒い。
レフォルマ通りでは警官があちこちに立って笛を吹いたり手を振ったり大変そうだったが、
そこぐらいか、交通マナーが守られるのは。
運転免許はなんと、取得するものではなく購入するもの。
年間180ペソ。安すぎ。永久の免許もある。
ガイドのNさんもそろそろ買おうかと言っていた。
大統領が来年変わったら制度も変わるかもしれないから今年中に、とのこと。
買うぐらいだから運転マナーというのは「世襲制」で、お父さんの運転が雑だと子供も雑になる。
お父さんの運転がうまくてそれをみようみまねで覚えるか、教習所(一応ある)に通うか。


Nさんのメキシコシティー・レクチャーは続く。
メキシコシティは階級社会だという話になる。
先ほどの車の話で言えば、上流階級が好む車は日本と一緒で外国車。
アウディ、ベンツ。日本車だとホンダ。
中流階級は日本車だと日産「サニー」が好まれる。
下層階級で人気があるのはフォルクスワーゲンの中古車。
流しのタクシー「リブレ」は専らフォルクスワーゲン。これがあちこちで走っているのは、
そしてそれが下層階級の人たちの乗るものであるとされるのはそういうことか。
中産階級用のセダンタイプのタクシー「シティオ」は日産「サニー」で、
メキシコでの名前は「TSURU」実際見てみたらそうだった。
もう1つ人気があるのは同じく日産の「ブルーバード」で、
メキシコでの名前は「GEISHA」・・・


住居にももちろん階級格差が現れる。
メキシコシティの中心にはホテルの立ち並ぶ上流階級の住む区画があって、
その周りに中流階級の住む区画が広がる。
そしてそのさらに周辺の郊外は貧しい人たちの住む地域となる。
低い山が裾野から侵食されていって、四角いコンテナのような灰色の「家」が増殖している。
これを日本語では「落下傘部隊」と呼ぶ。
地方で仕事にあぶれた人たちが首都メキシコシティに来ればなんとかなるとやってきて、
勝手に家を作って住み着く。
その山がもともと国有財産だったとしてもそこに5年住んだら居住権が与えられるという制度がある。
そうすると木材とトタンだけからなる粗末なあばら家に住む者にもコンクリートを買う権利が生まれ、
家らしくなってくる。やがてガスや水道も引けるようになる。
こうして灰色の家がしっかりとその斜面に固着する。
いつかメキシコシティの山々はこうした「落下傘部隊」で埋め尽くされるだろうと言われている。
こうした郊外の果ての果てに住んでいる人たちは何をして暮らしているかというと
観光客が泊まっているホテルの集中しているレフォルマ通りへと2時間かけて地下鉄に乗ってやってきて、
町行く人相手に新聞やガムを売っている。
もちろん、金になるわけがない。
メキシコシティで仕事にあぶれると彼ら/彼女たちはカンクンに流れる。
旅行好きな人なら知ってるけど、最近知名度の高いリゾート地ですね。カリブ海に面した。
でもここで働くには英語が必須。
下手すると公用語スペイン語すら話せない人たちも多いのに英語となるとさらにハードルが高い。
そして挫折した彼ら/彼女たちは「自由の国」アメリカ合衆国へと流れていく。
そうすれば英語が学べるから。そうすれば大金が稼げるから・・・。
アメリカ合衆国へと逃れるメキシコ人は年間350万から400万人に及ぶ。


4日に国立人類学博物館に行ったときに老若男女がメモを取っているのを見て
勤勉な国だなあという印象を僕は受けたが、
あれは中流・上流階級の人たちだったのだろう。
スペイン語が話せずにアステカ後を話すという人がまだまだ大勢いるとNさんの話は続く。
そういう人たちのために地下鉄では通常の路線図の隣に、
その駅の周辺図を記号を使って描いたものを貼っている。銀行はドルのマークなど。
駅1つ1つがアステカ風の固有な記号となっている。
(後にソカロを案内してもらったときに、地下鉄の駅へと下りていってこの解説となった)


住居の話に戻る。
落下傘部隊の一角を過ぎると、同じく小さなコンテナのような家が立ち並ぶ一角に入った。
でもこちらは山の斜面ではなく、道路の脇の区画に。
これらは国営団地。塀が立てられ、警備員がいて、とメキシコシティでも最も治安のいい地区らしい。
3LDKで1万5千円という安さ。メキシコの物価は日本の半分と言うのを差し引いても安い。
入居の条件は世帯の年収が月7万円以下であること。
(しかし、入居時にこの年収であって、
 その後この条件を上回るようになっても出て行かなくていいことになっている)
メキシコシティの女性は結婚後主婦となることが多いが、
この国営団地では共働きの世帯となることを想定している。


営団地の一帯を抜けると、工業地帯。火力発電所の煙突が黒い煙を放っている。
メキシコは中南米ではブラジルに次ぐ経済大国ということになっている。
主な輸出品は、金・銅・鉛など。
取引先の上位3カ国はアメリカ・フランス・ドイツの順。4番目に日本。
小泉首相がケサーダ大統領と会談を行い、自由貿易協定を結んだので取引高はさらに増えそうな見込み。
そうなったときメキシコシティで日本語の目にする回数は飛躍的に増えるのではないか。
あちこちで見かけなくもないが、まだまだ少ない。
メキシコの友達となるアジアの国は果たして中国が先か、韓国が先か、それとも日本が先か。


工業地帯の先は農業地帯となる。
メキシコシティの主要農産物は
・トウモロコシ :本来ならば10月末に収穫のはずが、今年は雨季の遅れで11月半ばとなる見込み。
・食用サボテン :サボテンの先に丸い黄色い身ができる。
 これを食べるのだが、かつては病院食として敬遠されていた。
 今は健康食品・ダイエットブームにより若い人も食べるようになった。
 生では食べられなくて、スープにして食べるのが普通。オクラのような味がする。
リュウゼツラン:プルケという蒸留酒の原料となる。