スロウライダー「むこう岸はエーテルの国」

10月1日の土曜日、スロウライダーの公演「むこう岸はエーテルの国」を見に行く。
クリス君、ミキさんといつものメンバーで。なんだか恒例行事となりつつある。
今回はクリス君の中学・高校からの友人にしてミキさんのダンナ、ヨシミ君も参加。
(ヨシミ君は海外公演をバンバンやるような静岡「市」の劇団に所属している)
ミキさんの後輩の漫画家(コミックブームに短編が載るらしい)も同行。


スロウライダー、小劇場系の小屋から抜け出して
なんと今回の場所は「三鷹市芸術文化センター」たいしたもんだよね。
若手の登竜門に選ばれたというか東京では星の数ほどある若い劇団の中から
「見に行く価値がある」演劇として認められたわけだから。
ここでやることを目標(マイルストーン)の1つに置いている劇団も多いんじゃないかな。


(でも、なんで三鷹市が演劇に力を入れているのだろう?静岡市もそうだけど。
 毎年毎年予算が下りるのは市民が演劇/芸術に理解を示しているから?
 「演劇なんかやってないで道路作れよ」ってケチつける人、多そうだけど)

    • -

昼の回は15時からだったので、「なんか中途半端な時間だな」ってことで
クリス君・シンタロウと集まってメシを食うことにする。
三鷹だから、近い」ってことで強引に武蔵小金井まで行って
かねてから気になっていた「カレーの店 プーさん」でカレーを食べる。
野菜チキンカレー。うまかった。★5つ級。
さすが多摩地区を代表する店と言われるだけある。


(先週から神保町に社外常駐となって、昼・夜はもちろんカレー屋巡り。
 勢い付いちゃって「いっそこの機会に東京の有名店を制覇してやる」と心に決める。
 年内に30コぐらい回れたらいいかな)


なお、「プーさん」に行くって決めたのが前日で、
その時点では武蔵小金井三鷹の隣だと勘違いしていた。それって武蔵境。
大学6年間を過ごしたのに、なんだか多摩地方も遠くなりつつある。

    • -

14時に三鷹市芸術文化センターにてミキさんらと待ち合わせ。会場入り。
今までと違ってホールでの上映となるため、
客席とステージとの境目がはっきりしていて、距離がしっかりと取られている。
「芸術文化センター」という格式ありそうな名前そのままの
軽はずみなことのできそうに無いずっしりとした荘重な雰囲気も漂っている。
小劇場出身の劇団にとってこれはやりづらいだろうなと思う。
スロウライダーに限らず。


舞台の前には幕が閉じられていて、
その前の細長いせり出しに「部屋」を模した空間が作成されている。
左手から中央にかけてゴミ袋の群、
右手に本棚(タイムカードを登録する機械あり)、机の上にノートPC。
「実は幕を開けないで終始これだけでやるんじゃないかな」
「そういうことしたらすごいな」なんて思うものの
いつも舞台装置に気合を入れている劇団だけあってそんなことするわけがなく、
幕の向こうには襖で仕切られた和室が2つ、さらにその奥の襖の向こうには日本庭園。
さすがだ。
どこかの地方都市のとてつもなく大きな屋敷、
しかも際限なく拡張工事が行われているという設定のようだ。


その地方都市では独自の通貨、地域貨幣として「エーテル」というものが利用されている。
人に親切なことをしてもらったら支払うことになっている。
その暴走がテーマの1つ。
物語が進んでいくうちにそれは
暴力的な物事を個人的な「親切なこと」にすり替えて
他人に実行「させる」ために「押し付ける」手段として機能するようになり、
それはやがて(こういう演劇ではありがちな話だが)機能不全を起こす。
結局誰が最も金持ちになったのだろう?
いや、エーテル長者になるのが目的なのではなくて、
いかに自分の欲望を満たした者の勝ちなのではないか?
エーテルを集めて願いを果たそうとする者たち、
ただただエーテルを介在手段として不気味な行為を延々と繰り返す者たち。
エーテルは地下水脈のようにとうとうと舞台の上を流れていって、やがて消えていく。
あぶく銭のように。
(結局エーテルってなんかの象徴として扱いたかったのか、だったらそれはなんなのか、
 それとも単なる小道具なのか、その辺りが歯切れが悪かったように思う)


これが縦軸で、横軸はいつも通り大勢の人物たち、
その屋敷に住む中の悪い兄弟、兄の勤める会社の同僚にして恋人(?)の女性、
(この劇団で初めて女性が出てくるのを見た)
弟の参加しているマンガ系同人誌サークル、
屋敷の従業員や拡張工事に従事する職人たちが入り乱れてパズルのようになる。
いろんなピースがはめられたり、隠されてそのままなくしてしまったり。
今回はこれまでと違ってストーリーテリングのマジックにより
最後にきれいな絵がぴしっと完成するのではなく、未完成のまま提示するような感じ。
これは賛否両論あるだろうな。
そのはまってないピースの向こうに何か見えそうな気がするんだけど、
もやもやしたままでイマイチはっきりとした何かが見えてこない。
いろんな事物や情報を放り込んでウワーッと撒き散らすのが得意な劇団にしては
今回どことなく消化不良で密度が薄かったというか。


そんなわけで見るのこれで4回目になるけど、初めて話がわからなかった。
ストーリーや役どころといった個々のピースが理解できないというのではない。
それは十分把握できる。
でもこの内容で何をしたいのか、何を言いたかったのかがわからなかった。
こういう議論って今の演劇では必要とされてなくて
古めかしい考え方なのかもしれないんだけど、なぜか見ててそういうことが気になった。


このように感じてしまった理由の1つとして、
三鷹市芸術文化センターという舞台に呑み込まれてしまったのかもな、というのがあるように思う。
負けてしまった。
それは観客との距離かもしれないし、発声法かもしれないし、
ステップアップしたことによる意気込みのささいな空回りかもしれない。
主宰の三好さんとちょっとだけ話したらそこは当人たちでも感じてて、
「もっと惨敗する劇団もあるけど・・・」ってことだった。
昔のような勢いがないなあ、みたいなことを偉そうにも述べたら
三好さんは「確かに以前のような野性味が薄れて、パズルとしての機能性を追い求めている」
というようなことを言っていた。


でもまあ、劇団としてはよくある類の前向きな悩みだよね。
こういうこと、あって当たり前。
次は「こまばアゴラ劇場」ということでこれまたなかなかステイタスのある場所なんだけど、
小劇場的雰囲気が今回よりはあるだろうから、多少やりやすくなるかもしれない。
ハコの名前に負けないだけの闇雲な自信を身につけて望んでほしいもんです。


「むこう岸はエーテルの国」も見ててつまらなかったわけではなくて、
退屈することは一切無くて、1時間40分があっという間だった。
「あれ?もう終わり?」みたいな。
(「なんだ、これだけ?」って感じでもあったけど)
どうなるんだろう?どうなるんだろう?と思いながら眺めて、
興味をそがれるような中途半端な瞬間は無い。
ここの部分の基礎がしっかりしている限りまだまだ伸びるだろうし、
僕は次の公演も見に行くと思う。