大名古屋旅行 その6(風来坊で手羽先)

オーヤマさんがぜひとも見たいと言うのでそのまま「こいの池」のスタンドに移動して
そこから1時間半待って、「こいの池のイヴニング」を見ることにする。
一日中歩きっぱなしってこともあって疲れてウトウトする。
夜になって空は空は暗くなってるのに乏しい灯りを元にヤンマが持ってきた漫画を読む。
これがまたとんでもないもので、後藤友香という人の「正義隊」という作品。
なんなのだろう、これは。ヘタウマを通り越してヘタ。
「いやー、だけど味があるんだよ」って言っていいものなのだろうか。
ここまでインパクトがあるともう何も言えんよ。
どこまで本気なのだろうか。たぶん100%本気なんだろうな。
この人はこの地球に正義をもたらそうとしている。


これも読み終わって、ぴあが出している名古屋の「いい感じの店」を集めたムックも読み終わって、
ヤンマと取り留めなく話をする。
(その間オーヤマさんは豪快に眠ってて、タツジンさんは「がきデカ」傑作選を読みながら居眠り)
ヤンマが言うには、「泥カレー」なるものがこの世にはあるらしい。
泥をそのまま使うのではなく、何度も何度も丹念に濾してから食材として使う。
テレビ番組の企画として作られたものなのか、
特殊なレストランでメニューとして存在するものなのかどうかまではヤンマもわからなかった。
とにかく「野菜は土の中で土と共に育つ。なのになぜ土もまた素材として人々の口に入らない?」
という信念がなせるわざのようだ。
でも、よく考えてみるとそれもありかもな。
砂だったらジャリジャリしてうまいわけがないけど、
生産地を丹念に選んだ土だったらミネラルも豊富で粒子も滑らかで、芳醇な「味」すらあるかもしれない。


スタンドはいつのまにか満杯で入場制限がかかる。
毎日やってるというのに、毎晩新しく、あるいは何度も見に来ている人がいる。
10分前になると「さあ、始まるよ!」って感じで水しぶきのスクリーンにアニメが映し出された。
主役はアニメの猿のようで、飛んだり跳ねたりしている。
ロバート・ウィルソンって人が演出らしいんだけど、どうもこれは子供向けらしい。
この10分の間何度も何度も同じアニメが繰り返されて、
これなら始まるまで何もしなきゃいいのにと「大人」である僕はついつい思ってしまう。
声の出演は黒柳徹子の真似をしている感じで鼻にかかった喋りが耳障りだなあ、
何でわざわざこんなことしてるんだろうなあと思っていたのだが、今調べてみたら黒柳徹子本人だった。


10分待ってようやく始まる。
水しぶきアニメの猿だけじゃなく、巨大な風船(?)の猿の肩から上が水面に浮かび上がる。
これがまたハンパじゃなく大きくて回転する、まぶたを上げたり下げたりする以外にできること何も無し。
はっきり言って怖い。泣き出す子供がいてもおかしくはない。
だけど子供たちは泣くことはなく、かといって笑ったり
「わー、あれなにっー!!」って声を上げたりもしない。
誰もが言葉を失って何も言わず、ザワザワしているだけ。
そもそもストーリーがよくわからない。
途中アニメの猿がワニに襲われたってことはかろうじて分かったんだけど
それが次の場面にどう繋がってどう活かされたのかがちっともわからないって具合で
終始困惑しっ放し。考えれば考えるほどわけがわからん。
というか別に分かりたくもないが。
そんで巨大猿は回転して瞬きしてるだけ。マジで存在意義がわからん。
スクリーンの映像が見えなくてむしろじゃま。
丸くて青や緑に光る風船がボートに引かれて水面を漂ったり、
真っ赤なものが逆方向から出てきて
巨大な芋虫かと思っていたらイソギンチャクのような触手が突然生えたり。
「ああ、そうか、これは現代芸術なのだな。だから僕らには分からなくていいんだな」
と思うことに決め込む。早い話全てが理解不能
この巨大な猿はどうもお母さん猿のようで、
後半お父さん猿がボートに引かれて登場するのだが、お母さん猿の1/4ぐらいの大きさではるかに小さい。
これはこれで何かのメタファーなのだろうか?
見た人しかわからんが、ヤンマ曰く、
「ね、ね、怖いよ。お父さんとお母さん、目を合せようとしないよ!」
お母さん猿の隣にちょこんと座っているだけ。そしてまた消えていく。何のために必要なのかわからない。
最後は白鳥と鵜飼をする人の人形が出てきて終わり。
子供連れの親子が無言で帰っていく。
こんなのを毎晩やってたのか・・・。
キッコロモリゾーがはしゃぎまわる着ぐるみのショーの方がよっぽどいいじゃん・・・。


驚いたことに、「こんなの」(とはっきり言うね)の音楽監督がなんとハル・ウィルナー。
アメリカの有名なプロデューサー。クルト・ワイルやディズニーを題材にした
奇想天外なトリビュート盤を次々に発表して音楽ファンの間で有名に。
サタデー・ナイト・ライブ音楽監督をやってたんですよね。70年代後半に。
そんな立派なキャリアのある人がこんな
テクノロジーに振り回されてるだけのつまらんショーの音楽を担当しているとは。
しかも調べてみたら参加しているミュージシャンの中に
ビル・フリーゼルやチボ・マットの本田ゆかの名前が!
ほんとどうしようもない。
落胆した。


西ゲートを通って会場の外に出る。
昼の入場にあたって利用した金属探知ゲートが
夜は周りに人が立つこともなくぬぼーっと立っている。
20時半。大勢の人たちがゾロゾロゾロゾロと家路についている。
シャトルバスに乗る人はこちら、タクシーに乗る人はこちらと係員が声張り上げている。
本郷までタクシーで戻るのだが、
ここでまた行列に並ぶのかなあと思いきや意外とスイスイ人がはけていく。
それほど待たされなかった。タクシーが何台も列を作って待っていて、
係員の指示の元次々にタクシーと客がマッチングされていく。


リニモ」はこの時間もう1時間・2時間待ちは当たり前ですよ、とタクシーの運転手が言う。
僕らの前に乗せて駅まで送っていったという
岡山から来たというお年寄り3人組は入場してたった5分で出てきてしまったのだそうだ。
人がたくさんいるっていうことがわかっただけで満足した、とのこと。
ここから先行列に並ぶのもしんどいし。
万博が終わって「リニモ」は赤字路線になるんでしょうね、と運転手は語る。
そうか、と僕は思う。パビリオンは撤去され、万博の会場はなくなったとしても(実際には公園になる)
この路線は残される。市民の足として。
鉄道があるからこの辺りは開けていって住宅も建つようになるんだろうけど、
なにしろ公共の施設は大学があるだけ。今のような利用者数となることは2度とない。
万博の後。いろんなことが、どうなるんだろうな。
運転手の方は明日は休みということで孫を連れて万博へ。
「ワニロールを食べるのが目的だね」とのこと。


本郷から地下鉄で千種へ。
「風来坊」で手羽先の唐揚を食べる。この店は支店が名古屋の至るところにある。
手羽先ならば「世界の山ちゃん」ってのも有名で、前者はタレ派で後者は塩・コショー派のようだ。
4人で8人前の手羽先を食べる。
さらに、ターザン焼きという骨付きモモの唐揚も食べる。手羽先も最高だが、これも最高。
風来坊は名古屋コーチンの店とか鶏料理専門店とかそんなんではなくてごく普通の居酒屋。
なのでそういうメニューばかり。大ジョッキを3杯飲んで食いまくる。食い倒す。後先考えず。
オーヤマさんとジャーマンプログレのあれこれとか、
東京タワーの蝋人形館と併設のCD屋
(ジャーマンプログレがほとんどの貴重な存在感を放つ店)について話し、
その他にはJ・G・バラードの話をしただろうか。
ヤンマが文庫で既に持っていたのにオーヤマさんが買ってきて無駄になったとか、
「コンクリート・アイランド」が手に入りにくかったのにようやく見つかったとか。
そうだ、最近名古屋には「グラタンうどん」ってのがあるということも話題になった。


日付が変わった頃オーヤマさんの家に戻る。
さらに飲む。
諸星大二郎であるとか、ブルース・リーであるとか。
(「ヌンチャクの練習、小学校のときやったよねー」と。僕はやってないですが)
高柳昌行の「カダフィーのテーマ」を聞く。


そして今回の旅行の最大の収穫、
Mark Pauline / SRL (Survival Research Laboratories)のビデオを見せてもらう。
2000年にどうしたわけか奇跡的に実現した日本公演の模様とその準備を収録したテレビ番組があった。
それをダビングしたもの。
そもそも僕はこの Mark Pauline という人のことを不勉強にして知らなかった。
Survival Research Laboratories の公式サイトのトップにこんなことが書かれている。
「Producing the most dangerous shows on earth」これが全て。
奇っ怪なロボットたちが繰り広げる悪夢。その首謀者が Mark Pauline となる。
オーヤマさんの家の壁に飾られていたCDの中にそのサントラがあって、なかなかかっこいいジャケット。
聞いてみたら思いっきりインダストリアル・ノイズ。
「いいですね!」と目を輝かせてオーヤマさんに語ったところ
「ビデオあるけど見る?」と聞かれて「見る見る!」と。
ついでにペヨトル工房から出ていた雑誌「夜想」の「フィルム・オブセッション」特集を読ませてもらう。
この Mark Pauline って人、心の底からの共感の意味を込めて、「狂ってる!」と言いたい。
何がどうと定義するのは難しいが、誰もそれを具体的に細部を指摘できないのに、
総体として「狂ってる」としか言いようがない、そういう狂気。
ビデオを見ると石井聰亙監督が Einsturzende Neubauten の日本公演の模様を映像作品にした
「半分人間」を思い出した。インダストリアルってことでそのままだけど。
これはすごい。狂ったマシーンが火を吹いて蠢き続ける。悪夢そのまま。
インタビューを読むと80年代の初期の活動では、これらロボットに兎の死体をくっつけたり、
さらに気味悪いことをしていたようだ。
(とりあえず東京に戻ってすぐ、DVDをオーダーした)


このビデオを見終わる頃には僕以外はみんな眠りだしていて、テーブルを片付けて寝る準備をする。
雑魚寝。僕は虎の毛皮を模した敷物の上にゴザを敷いて寝る。午前2時半。
疲れきっているので枕に頭を乗せると即、眠りの底へ。