「世界の終わりに」(脚本)

暗闇。


音楽。
様々な風景、様々な人々の人生の、様々な出来事のコラージュ。スローモーションで。
タイトル「世界の終わりに」


目覚まし時計の音。
テキスト「僕は目を覚ました」


視線が暗闇から部屋の中へと映っていく。
ロフトから降りていく。部屋は雑然としている。




街を歩く。電車の中。(それぞれ映像としては一瞬だけ)
テキスト「僕はその日、友人たちと映画の撮影に出かけることになっていた」




待ち合わせの場所へ。
2人の後輩(後輩B、後輩A)が待っている。車を背にして立っている。
1人は三脚を手にしている。1人は地図を広げている。
「おはよう」とか「おはようございます」とか挨拶を交わす。
僕は機材(ビデオカメラの入ったバッグであるとか)を地面に置く。


後輩たちが機材を車の中に詰め込む。
楽しそうに話している。
(話している内容は、聞こえなくていい)




車の中から見える風景(汐留)。
僕は助手席に座っている。




車が赤信号で停まっている。
女の子が右腕を伸ばして、身を乗り出すようにして立っている。
親指を突き立てて、ヒッチハイク。でかいリュックサックを背負っている。
運転している後輩Aが言う。「なにあれ?ヒッチハイク?」
後部席の後輩Bが言う。「女の子だ。乗せよーか?」
信号が青になる。ゆっくりと走り出して女の子の元へ。
助手席の僕は窓を開ける。「ヒッチハイク?」
女の子が窓に顔を近づけて言う。「乗せてくれる?」
後輩Bがドアを開けると女の子が滑り込んでくる。後輩Bが場所を開ける。
女の子は「ありがと」と言う。女の子には関西の訛りがある。
車が走り出す。




車は海辺を走る。
後輩B「今時珍しいことしてるね」
女の子「そう?確かに、私以外見たことない」
僕は2人の姿を、ルームミラーから眺める。
後輩B「どこから来たの?」
女の子「京都!」
後輩B「京都?」
女の子「全国回ってんの。ヒッチハイクで」
僕は窓の向こうの風景を眺める。


首都高の風景。(東京湾アクアラインへと向かっている)
後輩Aがカーステのボタンを押す。音楽が流れ出す。


遮るもののない、太陽のアップ。
(世界の終わりのイメージ:破裂する太陽?)
テキスト「彼女は、この世界はいつか終わってしまうから、
その果てしない思い出作りのために、と言っていた」


風景。(東京湾アクアライン、トンネルの中)




海ほたるの中。
車を降りてブラブラと歩き出す。


エスカレーターに乗る。(映像としては一瞬だけ)


展望台に出る。海が広がる。


下の広場へと下りていく。


後輩Aが手にしていたビデオカメラを海に向ける。
女の子「デジカメじゃないの?」
後輩A「僕ら、映画撮ってるから」
女の子「映画?」
後輩A「そう、映画」
2人の向こうで後輩Bが携帯で話している。


後輩Bが僕に近付いて、言う。
「△△たちの車、渋滞に巻き込まれてるみたいですよ」
僕は言う。「ほんと?今、どこって言ってた?」
後輩B「まだ浦安だそうです。△△が携帯の向こうでディズニーランド!!って叫んでます」


海辺の風景。




東京湾アクアラインの風景。地上に出て、橋の上を走っている。


僕が助手席なのは変わらないが、運転は後輩Bに変わっている。(ちらっと横を向く)
正面に向き直る。
後輩Aが女の子と楽しそうに話しているのが聞こえる。


テキスト「そのときはまだ僕は、僕らは、この世界が終わるということを知らなかった」




木更津の風景。
その後、田舎の風景。(それぞれ、一瞬だけ)


山並みを抜けて、海が見えた瞬間、後輩B・後輩A・女の子の3人は喜ぶ。




車は海水浴場の駐車場へと入っていく。


車が停まる。降りる。


機材を下ろして、砂浜へと向かう。


砂浜を歩く。


立ち止まり風景を眺める僕の前を、
後輩A・後輩B・女の子の3人が波打ち際へと遠ざかっていく。


僕は歩き出す。




後輩Aが三脚を立て、後輩Bがビデオカメラを据えつける。
別なマイクを三脚に立てる。ビデオカメラにつなぐ。
ヘッドホンで音声を聞く。「OK」と呟く。


なんとなく波打ち際を歩きながら、
女の子「映画って楽しいですか?」
僕  「楽しいよ」
女の子「どんなときに?」
僕  「そうだなあ」(返答に困る)
後輩Bが背後から叫ぶ。「準備できましたぁ!!」
僕は振り向く。
カメラとマイクのすぐ側に立つ後輩Aと後輩B。
僕  「なあ、主演の子たちが乗った車が遅れてるから、
替わりにリハーサル出てくんない?」
女の子「それってなにをするの?」
僕  「砂浜走るんだけど。青春映画みたいに」


後輩Aがカメラのファインダーを除く。後輩Bが音声を聞いている。
女の子がゆっくりと走って、カメラに背を向けて遠ざかっていく。
女の子は、笑いをこらえている。
立ち止まって振り向く。後輩Bが大声で叫ぶ。「まだまだ、走って!!」
女の子がまた走り出す。


テキスト「この世界が終わりを迎えるというのなら、
そのとき僕たちは、何を、どうしたらいいというのだろう?」


カメラの元に戻ってきた女の子が肩でハーハーと息をして、
「なんだか、久し振りに走った。・・・いい絵撮れた?」
後輩A「あ、でも、まだ、リハだから」
女の子(ものすごく、落胆して)「えぇー!?撮ってないのーっ?」
(画面に映っていない笹村君か村上君が駐車場方面に向かって合図をする)
そこに大きな声で、遠く(駐車場)から、「オカムラさーん!!」
別の車で来た後輩たちが砂浜に向かってくる。


後輩Cは着ぐるみを着て、頭だけ出してのんびりと歩いている。
後輩Dは歩きながら、後輩Eとフリスビーをしている。
フリスビーは遠くに反れてしまって、後輩Eは走り出す。
後輩Fは家族(妻と子)と一緒に歩いている。
後輩Gは、後輩Hは、・・・。


砂浜に全員が揃う。
とてもにぎやかだ。
ある者はカメラに興味を持ち、ある者は着ぐるみを自分も着たがり、
ある者は後輩Fの子供に話しかけ、ある者は波打ち際に近付き、
ある者は・・・。




僕は監督として指示をする。
「このシーンでは、○○が××したら、□□が△△して・・・」
(内容はどうでもいい。どちらか1人は着ぐるみを着た後輩C)


そして僕は大声で合図を出す。
「じゃあ、行くよ。カメラいい?」(後輩A頷く)
「音声いい?」(後輩B頷く)
「よーし、行くよ?じゃあ、スタート!!」


撮影とオフの時間の風景のコラージュ。
ヒッチハイクの女の子も一緒になって、楽しい時間を過ごす。
焚き火をするとか、意味も無く走り回ってるとか。


音楽。


テキスト「僕たちは何も知らないまま、無邪気に、楽しい時間を過ごした」




夕暮になっている。
砂浜を一人立つ、女の子。
向かい合う僕ら、撮影スタッフたち。
女の子   「ここで。また、別な人に乗せてもらうから」
後輩の誰か 「夜になるよ。危ないよ。」
また別の誰か「乗せてくよ」
女の子   「いい。・・・今日は楽しかった。さよなら」
沈黙がサーッと通り抜ける。
誰かが「さよなら」と返す。
僕らも一斉に「さよなら」と返す。
遠ざかっていく。もう1度大きな声で「さようなら!」
僕らもまた大きな声で再度「さようなら!」と返す。


女の子の姿が小さくなっていく。




さらに暗くなっている。
僕らは車に機材を積んで帰り支度をする。
まだ、楽しそうだ。




夜。助手席から見える風景。


突然それが真っ白に反転する。
冒頭の映像、様々な風景、様々な人々の人生の、様々な出来事のコラージュを繰り返す。
映像を反転させて。
音楽。


真っ白に反転した風景に戻る。それがゆっくりと静止する。
テキスト「世界の終わりに」


音楽。
エンドクレジット。