結婚式で富山へ その2(12月23日)

飛行機がガクンとしたか、機内放送かなんかで目を覚ます。
珍しく窓側に座っていた僕は窓の向こうに広がる富山の風景に目を奪われる。
(↑トイレが近い人なのでいつもは必ず通路側)
はるか彼方下界、分厚い雲の隙間から覗く真っ白な雪に覆われた富山はお伽話の舞台のようだった。
小さなおもちゃのような家々が立ち並ぶ。そして山々や雪原。みんな真っ白。
様々な大きさの雲の塊の中を飛行機は泳ぐように進んでいって、やがて日本海に出る。
紺色の無口で飾りのない、海。
雲の切れ目に差し掛かって晴れたり、また雲の中へ、というのを際限なく繰り返す。
どうやら前線が正に気圧の線を描く真っ只中にいるようだ。


特に遅れもなく、飛行機は富山空港に到着する。
どこもかしこも、空港の中も外も雪に閉ざされている。
僕なんかからしたら青森で見慣れた光景だけど
スキー場以外にこんなに雪が積もってるのを見たのは初めてという人が何人かいた。


ノザキ先生と合流する。(フランス文学の翻訳で有名な方です)
先生は主賓としてスピーチをすることになっていた。
僕以外のほとんどの人がノザキ先生のゼミに関わりを持っていた。
映画のゼミ。ここを中心とする人のつながりや出会いってのが
僕らのいたサークル「映創会」と同じぐらい重要だった。
10代末の僕はゼミで何か語れるほど映画に詳しくないしなーと気後れして参加せず。
(大学院のゼミは1年取ってたんだけど、ちっとも勉強しない学生だったので
 僕としてこのことを余り公にしないようにしている。
 前期の宿題のレポートで確かルノワールについて書いたんだけど
 読書感想文レベルの自分でも明らかにひどいと思うシロモノで、
 今年の学生は質が低いと先生が嘆いているとどこかしらから聞かされて
 悪いことしたなあと思った。その頃の僕は映画を作ることに明け暮れていた)


空港を出て、タクシーに乗って会場であるホテルに行こうとするがつかまらない。
雪がシンシンと降り続く。
外のタクシー乗り場は喫煙所と一緒になっていて、「寒いなあ」と震えながら煙草を吸う。
先に待っていた人たちがはけて、ようやくタクシーに乗ることができた。体がすっかり冷え切る。
運転手の方が話し好きであれこれ聞くことができた。主にこの大雪のことを。
12月にこんなに降ったの初めてだ、というところから始まる。
昨日22日から交通は麻痺に近い。飛行機は全て欠航、新幹線も一部不通。
「お客さんたちはとても運がいいよ」と言われる。
タクシー乗り場でやたら待たされたのは、
いつもなら到着時刻前後に客待ちで並んでいるのが
どうせ欠航で誰もいないだろうと運転手たちが思って空港に向かわなかったから。
僕らを乗せてくれた運転手は
どうも飛ぶらしいと聞いて空港まで行こうとするお客さんを乗せた帰りだった。


後で聞いて分かったんだけど、
僕らの乗った便は奇跡的にこの日ピンポイントで富山に到着した便だった。
前後の便はことごとく欠航か、隣の石川県の小松空港に暫定的に着陸するか。
僕らより一本早い便で東京を発とうとした新婦の友人たちは欠航となり、
次の便も満席となってさらにその次、・・・という感じで披露宴に間に合わず。
その次の便も結局小松空港に着陸。そこから特急を乗り継いで富山入り。
しかも小松に向かう前に晴れ待ちのため富山空港上空で1時間旋回したのだという。
新婦側主賓のスピーチも急遽新婦の友人が替わりに。
僕ら映画サークル仲間の1人も本当は同じ便で行くはずだったのが
搭乗手続きは間に合ったのに5分の遅れで次の便へ。
これが天と地を分ける。話を聞いたらえらく大変なことになっていた。
同じ北陸地方であってもなんで小松空港には着陸できて
富山空港ではダメなのかというと、
小松空港には非常に高機能な誘導装置みたいなのが滑走路に整備されていて
それで例え吹雪の中であっても誘導が可能なのだとのこと。
富山空港もそれを導入すればいいんだろうけど、川沿いに滑走路があるせいで無理らしい。
青森空港にも導入してほしいね)
要するにパイロットの敵はあくまで視界不良であって、
風の強さはあんまり関係がないということ。この程度の吹雪ぐらいじゃびくともしない。


もう1つ運転手さんに聞いた話として、なんでこんなに積もったかといえば
いつもならサラサラの粉雪なのに、
今回の雪は日本海の湿気を吸い込んでボタン雪になったから。
恐らく極度の寒さが日本海の彼方から氷のような雪をそのまま運んでくるのだろう。


路面電車の線路だと指差されて、そちらを見る。
バスもタクシーも走らなくても富山は路面電車だけは定刻通りに走るのだという。
次の日24日に外を歩いていたら小さくてカラフルな路面電車を何台も見かけた。


ホテルに到着する。すぐ目の前に富山城。江戸時代は前田家の居城となる。
結婚式まで時間があったので1階ロビーの喫茶店でコーヒーを飲む。
普段スーツを着慣れてない連中が黒のスーツを着て集まってるのを見て、
ノザキ先生は「ギャングの出入りみたいだな」と感想を述べた。
結婚式の1時間前だというのに新郎であるサイノウさんがふらっと
これから映画でも見に行くかのような格好で現われる。
「いやあ寝飛ばしちゃって」と照れもなく真顔で語る。
ノザキ先生曰く「・・・授業じゃないんだから。変わんないねえ、彼は」
大方の予想と反してサイノウさんは
ガチガチに緊張してなくていつも通りおおらかなまま。


その後雑談をしながら軽く飲んでるうちに結婚式の時間となる。
ホテルの中の小さなチャペル。
席が足りなくて僕らは壁際に立つ。悪いことをして壁際に立たされた子供たちのようだった。
この頃から僕ら映画サークル連中は新郎に頼まれてビデオを撮り始める。
2台駆使して、三脚を立てて。
余りにあちこち動き回って撮るために
式場のカメラマンといい位置で撮るための場所の取り合いとなる。


式はつつがなく終わる。
賛美歌が歌われて、聖書が読まれて、指輪を交換して
(新郎の指に指輪がはまらないというお約束のハプニングアリ)、
誓いの言葉が交わされて、などなど。


別室に移動して全員で写真撮影。
たった1人でも誰かの陰になって写ってないということのないように、
時間をかけて人の配置を調整する。
総勢100名超えていたろうか。