「大人ROCK」

会社の後輩の女の子からメールが来て、
今度の土曜にライブをやるのでビデオを撮ってくれないかと頼まれる。
空いてたので「いいよ」と即答。
当日は朝まで飲んでて二日酔いで睡眠不足、なおかつ大雪で大変だった。
でも、行く。もちろん。
知り合いのライブに行くのも最近ないことだし。


場所は渋谷。「大人ROCK」というイベント。
爆風スランプのバーべQ和佐田が主宰で、社会人バンドを集めるという企画。
なかなかいい趣旨だと思う。
が、後輩のバンドの1個前がひどいもんで、ほんと社会人バンドそのまま。
趣味でやってるだけです、っていうような。
月に2回スタジオで練習してます、でも全員揃いません、って感じの。
なので演奏がアマチュアリズムそのものだし音が全然合ってない。
ユニコーン奥田民生のカバーが主体で、「服部」で登場してオリジナルを挟みつつ
「CUSTOM」「車も電話もないけれど」「スターな男」「おかしな2人」などなど。
帰ろうかと思った。まじで。寝て過ごせたら。そう思った。
それにしてもユニコーンをカバーしているバンドの演奏を聴いて改めて思うに
ユニコーンだろうと奥田民生だろうと演奏がうまいことがまずありきだし、
うまかったところであの雰囲気はなかなか出せないもんなんだな。
(両者の雰囲気は民生の曲と声以外は全く別物ですが)


後輩のバンド。
Ego-Wrappin' や小島麻由美といった新しいところのカバーと
ブルースの定番「Route 66」など。
歌も演奏もなかなかうまくて「ほー」って思った。
個々のポテンシャルはなかなか高い。
でも、今年に入って初めて全員顔合わせして練習したとかで
バンドとしては急ごしらえ、微妙に、ほんと微妙な部分で噛みあってない。惜しい。
そのバンドならではの風味というか粘りとして薄い。
だけど十分聴ける。聴かせる。
このまま続けていけばなかなかいい感じになりそうなのに、
どうもこれが一回きりだというのがなんだかもったいない。


持ち時間は1時間で、その間カメラ回しっぱなし。
去年この後輩の加わっていたバンドの撮影をしたときは
貸切で周りが皆会社の人たちって事もあって
僕はあちこち動き回って撮ってたけど、
今回は狭い場所でそうもいかず、椅子に座って位置は固定。
曲の展開に合わせてカメラを振ってみたりズームしたりを淡々と繰り返した。


で、後輩のバンドが終わった時点で帰ろうと思ったんだけど、
その次の出演者がものすごくうまくて、そのままさらに1時間聞き入ってしまった。
「Setsu-oh」という女性。ジャズシンガー。
今インターネットで調べてみても詳細はよくわからず。気になる。
普段は会社員らしく、MCでそういうことを言っていた。神戸出身。
バックはギター2人。この2人が超絶技巧系でとにかくまずそれだけで聞かせる。
客席のあちこちで「すげー」という声がぼそっと口をついて出る。
僕も何回も「すげー」って言ってしまった。
ボサノバならボサノバ、ブルースならブルースと
曲ごとにだいたいの雰囲気が決まってるんだけど、
その枠組みをさらっと壊して緻密で繊細なフレーズで全く別の音楽へと織り上げていく。
ここまでうまいギター、久々に生で聞いた。2人ともうまい。
Gontiti」なんて言ってたけど。匹敵する。舌を巻く。
バッキングとソロを同時に奏でて1秒ごとにその役割を交代するというか。
ソロになるとバキッベキッとパーカッシヴな音も出てくるんだけど、
攻撃的で荒れた音にはならず。
なんつうか切れ味いい刃物を試しているような、しかも居合い抜きで。


そして「Setsu-oh」の声と歌。
最初楽屋口から覗く顔はおどおどして、平たく言えば貧相な感じだった。
ギターを抱えたオヤジ2人が出てきて椅子に座るし、
始まるまでは「なんだこりゃ?会社員フォークか?」と思うことしきり。
が、歌いだすと豹変する。
「女」になる。切なげな顔つき。ライトが当たって、そう、艶っぽくなる。
物憂げに、女が女であることの悲しさや嬉しさをその声と歌でいっぱいに表現する。
背中にゾクゾク来た。
ライブでここまで「出会った」感を得たのは
5年前のフジで初めて渋さ知らズ以来かもしれない。
それぐらいこの人はすごい!!
こんなすごい人がアマチュアだなんて、おかしい。
このレベルの高さ。これならお金を払ってでもまた見たい。
同じ曲を毎回やるのでもいいから、また見たい。
客席には30代半ばの女性の姿がちらほらと。
ライブの噂を聞きつけて足を運んだのだろう。
歌ったのは、後輩のバンドと偶然重なって「Route 66」や
「Fly Me To The Moon」に Norah Jones で有名な「Don't Know Why」
Stevie Wonder で CM に使われた「Overjoyed」
そして最後に、The Carpenters 「(They Long To Be) Close To You」感涙。
また聞きたい・・・

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見終わってから、(出てた子とは、別の)後輩の女の子と飲んだ。
蕎麦で飲む。焼酎の蕎麦割を初めて飲む。
おいしくて何杯も何杯もグイグイと飲む。
旅行の話など、する。
これまでに行った国のこと、これから行きたい国のこと。