雪原を走る鉄道が、遠くに消えていく。
その音も雪の中にかき消され、やがて何も聞こえなくなる。
無人の駅舎に寄りかかり、地平線の果てまで続いている雪原を眺めた。
ぐるっと見渡してみてもいくつかの建物以外何も見えない。
流刑地の小さな村が、寄席集まったみすぼらしい小屋があるだけである。
凍えそうな寒さ。コートの襟を立てる。裏地が何の意味も成さない。
トランクを持ち上げ、ホームの上を雪原に向かって歩き出す。
吹雪は止まったかと思うと突如別な方角から吹き荒れる。
雪が伴うこともあれば、風だけのこともある。
空は灰色の雲が厚く重なり合う。
駅舎へと引き返す。
粗末な造りの待合室とその隣に鍵のかかった倉庫があるだけ。
待合室の引き戸を開けて中に入ってみる。
時刻表とやぶれかけた防災運動のポスターと風景画、
壁際に木の長椅子がくくりつけられているだけ。
時刻表を見ても月に二本ここを通ることがわかるぐらい。
その一本が先ほど通過した。次は二週間先となる。
風景画は額に入っているわけでもなく、
雑誌か何かの切抜きのようだ。
白樺の林が描かれている。
ここに来る途中、列車に揺られている間に果てしなく白樺の林が続いていたように思う。
あれは昨日のことだったか、それとも一昨日のことだったか。
列車には乗客がほとんどいなかった。
車掌以外と話すことはなかった。
食堂車で朝と昼と夜と一人きり食事を取って、
窓の外の移り変わる、時として一日かけても何の変化もない景色を眺めた。
駅舎の外に出て、雪で覆われた階段を下っていく。
「村」へと至る小道は誰も利用していないようで、雪が降り積もっている。
歩いていると一歩ごとに踝まで雪の中に埋まる。
村の入り口にて立ち止まる。
シンと静まり返っている。
ここに人が住んでいるのだろうか?
耳を澄ますとかすかに物音が聞こえる。
これらコンクリートの小屋の中で動いている機械たちのたてる、単調な物音。
煙突はあっても煙はなく、壊れた車が吹き晒しの中に見捨てられている。
出迎えるものもなく、家の一つ一つの前を通り過ぎる。
ゆがんで、崩れかけた何かしらの残骸が増殖して、その途中で凍り付いている。
そんな印象を受けた。
どれもこれもが灰色か黒い色をしている。
色彩というものが失われている。
村のはずれに一つだけ大きな建物があった。
集会所か何かの役割を果たしているのだろう。
立ち止まり、眺めてみる。
何の掲示もなく、人の済んでいる気配はない。
門をくぐり、中に入っていく。
扉の前で立ち止まる。
扉に手をかける。
深く息を吸うと、肺が凍りつきそうになる。