ニッポン小さな旅(鶴見線扇町編)2/2

終点、扇町に到着する。
ホームから360度見渡してみるが、
どこを向いても鉄工所や工場、小さなコンビナートしかない。
娯楽や生活のための施設のある雰囲気は完全にゼロ。
時代遅れの工業地帯。
鉄道ファンの男性たちが根室がどうこう釧路がどうこう言いながら通り過ぎる。
似たような雰囲気のローカル線があったのだろう。


ホームを端まで歩いていって無人駅の改札をくぐろうとする。
くぐるも何も自動改札ではなく、駅員が立ってるわけでもない。
一瞬、このまま出てしまえばSUICAの引き落としができなくて無銭乗車できる?と思うが
よく考えたら次乗るときに困ったことになる。
見ると路上パーキングのメーターみたいなのが立っていて、
そこにSUICAをかざすようになっている。
かざす。引き落とし額が表示される。
こんなものがあるとは。近未来っぽいような、パラレルワールドに迷い込んだような。
単線の無人駅であろうとSUICAを利用できるようにしたら
こういう折衷案となったということか。
無人駅同士を乗り降りしていたら無銭乗車できそうだが・・・)


扇町の地図参照。
http://map.yahoo.co.jp/pl?nl=35.29.55.123&el=139.43.31.329&la=1&fi=1&prem=0&sc=3


駅舎を出る。
笑っちゃうぐらい何もない。
目抜き通りとか「駅前」とかそういう雰囲気の商店街はなし。
僕のような観光客が同じように小さな範囲を行ったり来たりして途方にくれている。
かろうじて小さな個人商店と食堂っぽいのと、
「ビジネス旅館」と称する民宿みたいなのがあるんだけど、どれもシャッターを下ろしていた。
土曜で工場が休みだからか??
ものを買おうとしたら自販機がちょっとあるだけ。
「白鶴」の看板が目に付く。「ああ、ここは白鶴が似合うなあ・・・」と思う。
工場で働いている人たちが夜に安酒をかっくらう姿を僕は思い浮かべる。


南の方、東の方、2つの通りを果てまで歩いてみるものの、
どちらも大会社系列の工場ないしは
港湾施設の入口で行き止まりとなっていてそこから先進めない。
海がすぐ近くなのは肌で感じるのに、高い壁に閉ざされてるような閉塞感を感じる。
火の粉が舞い上がる町工場を通り過ぎたり、
広い敷地を持つ近代的な工場施設がポツンと建っていたり。
打ち捨てられたような線路が何列も並び、
何十年も前に死んでしまったような貨物列車の車両が静止している。
歩いている人は皆無。
町工場の中、あるいは工事現場でかろうじて見かけるぐらいか。
男性ばかり。若かったり、年老いていたり。
土曜だからか。平日だともっと人通りがあるのか。
それでもほぼ男性だけなんだろうな。
大型のトラックだけはひっきりなしにあちこちを駆け巡っている。


情緒と呼べそうなもの、皆無。
こんな何もない場所で日々働いている人たちがいるのか・・・
工場で単純な作業を来る日も来る日も。
そして僕なんかよりも全然給料は少ないはず。
僕らは日々消費社会ってヤツの上澄みにどっぷり浸かって
あーだこーだ偉そうなことを言ってるだけなんだなあ、って思ってしまった。
この国を支えているのは、こういうところで黙々と働いている
名もなき、声なき人たちなのだ。
こういうところでは暮らしていけない、
働くことはできないと素直に思ってしまう僕は
人として間違っているのだろうか?


駅を出て最初の10分でもう見るものはなくなった。
なのに次の電車は1時間先。
腹が減っても食べる場所はなし。鶴見か川崎まで引き返すしかないようだ。
時間だけは有り余っているので無人の大通りを北の果てまで歩いていく。
どこかの化学メーカーのだだっぴろい研究施設、とある物流会社の拠点。
石油メーカーの石油を運ぶトラックが何台も並んでメンテナンスを受けている。
錆付いたバス停がいくつも目に付くんだけど、バスが走っているのは1度も見かけなかった。


さらに別な大通りに出る。商店がいくつかあって人の住んでる気配が多少感じられる。
1つだけ開いている商店はカップラーメンとかそういうのをまばらに売ってるだけ。
その隣に営業している中華料理屋を見つける。
窓越しに中を覗いてみると、工場のつなぎの制服を着た30代や40代の男性ばかり。
最初ためらったものの意を決してドアを開ける。
場末の安普請の中華料理屋。
厨房の中も外もいろんなものがゴチャッと積み上げられている。
何年も前のポスターが油で黒ずんでいるような。
置かれていた電話機は僕が小さなことに見かけた、ピンク色の公衆電話。
テーブルでは働いている人たちのグループが世間話をしながら食べている。
僕はカウンターの隅に座る。
観光客っぽい僕はものすごく場違いだった。
とりあえず目に付いたレバニラ炒めの定食を頼む。
500円と安い。これが一番高いメニューだった。
平日の夜は定食じゃなくて一品料理で清酒か瓶ビールを飲むのだろう。
年老いた夫婦がカウンターの中にいて、おばちゃんが作り始める。
すぐにも出来上がる。傾いたカウンターに食器が並ぶ。
うまくもまずくもない。モソモソと食べる。味噌汁はうまかった。
僕の座った位置では背を向けていたんだけど、
店の中にいる誰もが1台きりのテレビを眺めていた。
キューピー3分間クッキング。
おじちゃんもおばちゃんも客の労働者たちもみな。
この世の中には他に関心をもつべきものが何もないかのように。


店を出て、何もないまっすぐな大通りを引き返して駅へ。
早々と駅の中に入ってベンチに座って電車が来るのを待つ。
僕、1人きり。
電車が入ってきても、乗り込んでくる人は誰もいない。
12時25分初の鶴見行き。
11時20分頃到着して、
結局ここには1時間しかいなかったことになる。


浜川崎を過ぎた辺りから乗客が増えてくる。
終点鶴見ではかなりの人が下りた。
京浜東北線に乗って隣の川崎へ。
初めて来てみたけど、
特にこれと言って語りたくなるようなことはなし。
ブラブラと暇を潰す。