ブレインダメージ

養老孟司著「バカの壁」を読んだ。これは非常に面白い本だ。
びっくりした。目からウロコの連続。
僕みたいな単純な人間からすれば
養老孟司は知の巨人ではないかとすら思った。


あれこれ書きたいんだけど、この本の内容は要約しても仕方がない、
というか要約して大事な点を箇条書きにしたら
この本のエッセンスはなくなってしまう。
冒頭の「話せばわかるは大嘘」とかね。このフレーズが一人歩きしても意味がない。
面白さを伝えようとしたら結局全部書き写すことになりそうだ・・・


一箇所だけ。
後半こういうことを言っている箇所がある。
犯罪を犯した人の脳についてアメリカで調査した結果について。
衝動殺人を犯す人:前頭葉の機能が落ちている
連続殺人を犯す人:扁桃体といって善悪の判断等にかかわる部分の活性が高い


犯罪者の脳についてデータを取っておくべきだと養老孟司は言っている。
でもそれは、「脳のこの部分がうまく機能していないから犯罪を犯しても致し方ない、無罪だ」
という司法の判断に使いたいのではなく、
犯罪を犯す傾向を示した人をなんらか教育して別な方向に導くことも可能ではないか、
という意味においてのことだった。


教育、再教育の方向性ならばいいだろうけど、
(それでも「人権」を唱える人は多いだろうし、実現にはなかなか至らないと思う)
未然に犯罪を防ぐ方向ばかりがエスカレートした社会にもしなったら?ということを考えた。
そう、「マイノリティ・レポート」みたいなやつ。


全国民は脳の状態についてスキャンを取られることになった。
その後、以下のようなレポートが政府の機関から届く。
「あなたは連続殺人の傾向があります。犯罪を犯す確率70%」
結果として、病状の等級がつけられたり、特定の職業に就けなかったりする。
それどころか、収監されてその後一生隔離されて暮らしていくこともありえる。
あるいは、なんらかの外科手術により「一般人化」される。
人格・人間性の改造・改変・改良。
それまで何も知らずに普通に暮らしていたのに
それまでの自分が否定され、力を持った人たちに「あるべき姿」へと上書きされる。
あなたはどうするか?


もしそれが自分自身ではなく、
あなたの配偶者、子供、両親だったらどうするか?


確率が70%ではなく、30%だったらどうなるか?
世の中はどう判断するか?レッテルはどんなふうに貼られるのか?


科学の進歩ってやつの歪んだ側面。
その犯罪の被害者やその家族ならば
取り締まれ、規制しろ、未然に防げと声高に主張する人も出てくるだろうし、
それを見て「なんでそんなに熱くなってんだろう?」
「なんでそんなにヒステリックなのだろう?」とキョトンとする人も出て来る。
各種人権団体や被害者団体がそれぞれの意見を言うだろう。
(そういうところだけはこれからもずっと変わらないんだろうな)

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離れ小島に連続殺人ないしは衝動殺人の「傾向のある人」を収監した病棟があって、
高い塀で張り巡らされている。
「病人」(囚人)たちだけではなく、大勢の医師、看護人や科学者も生活を共にしている。
普段の生活、例えばバスケットコートでバスケットボールをする、
食堂でランチを共にするといった局面では両者に区別はないように見えるが、
時として両者の関係は「実験する側/される側」「観察する側/観察される側」となる。
緊張した状況や敵対関係も時として生まれる。
主人公は「70%」の判定を受けて島に送られる。
(誤診や「誰かに貶められた」でもいい。その方が物語りは面白くなるかもしれない)


とある事件をきっかけに、脱獄の計画が水面下で持ち上がる。実行される。
主人公はその脱獄グループの活動に巻き込まれ、行動を共にする。
船(飛行機?)を奪い、島から脱出する。
天候が荒れたりして、どこか別の島へとたどり着く。
そこで新たな避難生活を細々と始める。
グループの構成員は誰もが一見冷静な、罪を犯しそうにない人たちだ。
なのに、食料は乏しく苛立ちは募り、
「救助を求めるべきだ」「いや、戻ったらもう2度と外に出られない」
といった意見の対立から一触即発状態になる。
最初の1人目の、殺人本能が活性化する。
そして2人目の、3人目の・・・
死のサバイバルが始まる。
救助に来た人たちも次々にその餌食に。
果たして主人公は生きて島を脱出できるのか?


どうだろうか、これ。
ミモフタモナイ話だけど、今のハリウッドならこれぐらいの話、普通に作るかな。
殺人シーンを直接描かず、仄めかすだけのスリラーな演出に長けていたら
日本でも作れるかもしれない。
後半はもう、アクション系サスペンス映画ですね。