あれは去年の秋だっただろうか。
映画サークルの後輩で現在大学院の博士課程にいるミウラと西荻で会って飲んでたら
「今度ジム・ジャームッシュのインタビュー集の翻訳を出すんですよ。
オカムラさん、よかったら訳注を書いてくれませんか。
音楽関係のところ。詳しい人が書いた方がいいでしょ」
と言われる。
僕は「やるやるやるやる。ノーギャラでもなんでもいいからやる」と即答。
その後音沙汰なく、しばらく翻訳の作業が続いていたようだ。
年が明けて、あれってどうなったのだろうと思っていた3月頭、
ミウラから「そろそろお願いします」と
訳注を書かなくてはならない人物や出来事のリストが送られてくる。
その数50は超えていただろうか。
仕事の合間にこっそり、あるいは土日に家でがっつり、どんどんリストを埋めていった。
John Lurie や Tom Waits といった映画に出演しているミュージシャンに始まり、
「イヤー・オブ・ザ・ホース」を撮ったことで親交の深い Neil Young のアルバムや曲目の数々、
(「Like a Hurricane」「Cortez the Killer」「Cinnamon Girl」etc.)
ニューヨーク・パンク、ニューウェーブのあれこれ、
(Patti Smith, Television, Heartbreakers, Ramones, Blondie, Talking Heads, CBGB's etc.)
日本人の音楽好きでも余り知られてないような地味なグループやトピック、
(Spinal Tap, Blurt, HORDE TOUR)
バルトークやシューベルトといったクラシックの作曲家、
Gene Vincent, Link Wray, Carl Perkins といった50年代のいわゆるロカビリーの人たち、などなど。
普段聞かない音楽もあって、何かと大変だった。
Grateful Dead について書いたのはこんな感じ:
「1965年、サンフランシスコにて結成。
西海岸のヒッピー・カルチャーの中心的存在となる。
1996年、中心人物であるジェリー・ガルシアの死により解散。
熱狂的なファンたちが「デッド・ヘッズ」と呼ばれるコミュニティを形成し、
デッドのライブを求めて共に旅を続けた。
解散後の今もオフィシャル・ブートレッグが年に数枚発売されるなど、人気は根強い。」
インターネットで検索したり、アルバムの解説を読んでみたり。
こういうのって情報に乏しいマイナーな項目よりも
実は Bob Dylan のようなビッグネームについて書くことのほうが難しいことがわかった。
書くべき事がたくさんありすぎてどこを切り出そうってのもあるし、
そもそも恐れ多いってのもあり。
結局最後まで残った。
こういうの書いてく作業って僕みたいな人間にはとても楽しくて、
どんどん変に調子付いていって、
途中段階で送ったらミウラに「ちょっとやりすぎ」みたいな指摘を受けてしまった。
「My Way」(Sid Vicious)について書いたのはこんな感じ:
「フランク・シナトラ(または勝新太郎)で有名な人生賛歌。
それをたかだか20歳ちょっとの若造が歌う。
しかも顔に似合わず可愛らしい声で。
人々の抱くイメージ通りに、
最も分かりやすくパンクの何たるかを体現した「名唱」である。」
まあ、そんな感じで書きあがって、本も無事に、先日出版された。
僕の原稿締切から1ヵ月後。
すごいスピードで制作が進行したんだろうな。
ジャームッシュの新作「ブロークン・フラワーズ」の公開とも時期を合わせたいってのもあって。
ミウラからは一冊もらえることになってんだけど、さっそく自分で買いに行った。
僕の書いた註がしっかりと載ってる。
訳者の後書きにはこんなふうに書かれてた。
「ニューヨークパンクマニアで現在作家活動もしておられる岡村豊彦さんには
音楽関係の註の大部分をつくっていただいた。」
関われてとてもうれしい。
僕が自分で全部書いたモロッコの旅行記より、大勢の人が手にとって買うわけことになるわけだし。
大きな本屋の映画コーナーに普通に並べられて。
「ブロークン・フラワーズ」の公開されている映画館にも置かれる。
自分の本よりもうれしいかもしれない。
この本に関して、実際のところは
編集担当や僕の他に註を手伝ったのは僕の知ってる人というか、
映画サークルつながりの人たちだったりする。
こういうコネクションって大事だよなあ、と思った。
「JIM JARMUSCH INTEARVIES 映画監督ジム・ジャームッシュの歴史」
編集ルドヴィグ・ヘルツベリ 翻訳三浦哲哉(東邦出版)