シド・バレット死去

先日、どこかでシド・バレットが亡くなったと聞いた。
調べてみたら本当だった。
7月7日だというから、今日でちょうど2ヶ月ということになる。
http://www.cdjournal.com/main/news/news.php?nno=12194


Pink Floyd の結成メンバーにして、初期の音楽的なリーダー。
(この部分の経歴に、なんとなく僕は
 The Rolling Stonesブライアン・ジョーンズを重ね合わせてしまう)


彼の主導の下、Pink FLoyd は 1967年にサイケデリックな 1st アルバム
「夜明けの口笛吹き」(The Piper at the Gates of Dawn)を発表。
好評を博したものの、その頃から精神のバランスが崩れ始める。
ドラッグに溺れて奇行が目立つようになり、脱退。
音楽業界のプレッシャーに耐えられなかった、とされる。
1970年にソロアルバムを2枚発表するが、それっきり音楽シーンから完全に姿を消す。
その後長い間、母親の介護の元隠遁生活を送る。晩年は絵を描いて暮らしていたという。


その一方で Pink Floyd はロジャー・ウォータースが実験を握る。
2nd アルバムより方向性を転換し、英ロック界を代表するグループへと成長する。
1973年発表の「狂気」(The Dark Side of the Moon)は
ビルボードのアルバムチャートに15年に渡ってチャートインするという
前人未到の記録を打ち立てる。歴史上最も売れたアルバムとされる。
Wikipedia を参照すると、「連続591週、トータル741週」とある)
僕は5月にアメリカ、シンシナティに行ったとき、
帰りの飛行機に乗るために夜が開けきらないうちに空港へと向かう途中、
友人の運転する車の中で地元のFM局がこのアルバムを
中断なしで延々、ずっとかけ続けていたことを思い出す。


どれだけ大きなグループとなろうとも
ロジャー・ウォーターズシド・バレットの不在に捕われ続けたようで、
1975年発表の「炎」(Wish You Were Here)はその名の通り、
「あなたがここにいてほしい」という思いをコンセプトにしたものだった。
脱退したメンバーのことでアルバムを一枚制作したバンドなんて
後にも先にも Pink Floyd だけではないか?
このアルバムの中の収録曲にして Pink Floyd の代表曲の1つ
「Shine on You Crazy Diamond」にちなんで、
その後、シド・バレットは「Crazy Diamond」と称されることになる。


このときのレコーディングにおける、有名なエピソード。
スタジオで作業していたメンバーのところに
ある日ふらりと太ったハゲの男が現れる。ニヤニヤ笑ってるだけで何をするでもない。
「誰だこいつ?」「スタッフかミュージシャン?」とメンバーが疑問に思っていたところに
ロジャー・ウォーターズだけは「シドだ」と気づく・・・
詳細はこのサイトが詳しい。
http://boat.zero.ad.jp/floyd/floyd/syd/03.htm
ロック史上、最も泣ける話の1つだと僕は思っている。

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ありえないぐらい、繊細な人だったのだと思う。
この時代のミュージシャンで並ぶのはニック・ドレイクだけかもしれない。
(74年に抗鬱剤の大量摂取により、死去)
1枚目の「夜明けの口笛吹き」を聞くと、この人にしか見えていなかった世界というか、
この人にとって「この世界はこんなふうに見える」というものがあったんだな
というのが痛いほど伝わってくる。
サイケデリックなポップソングのようでいて、何かが違う。
荒涼としていて、それでいて極彩色な、妖精たちが舞い踊り、
人の気配が全くない天上の世界がそこには広がっている。


ソロアルバムから感じ取れるのはとにかく、寂寞とした孤独。
貼り付いて染み付いてどうにもぬぐうことのできない、諦念。
「向こう側」を垣間見たどころの話ではなく、
扉を開けてそちら側に「行ってしまった」人の音楽。


前掲のサイトには、シドの描いた絵が掲載されている。
http://boat.zero.ad.jp/floyd/floyd/syd/gallery/top.htm
彼の亡くなったことを知った今、
その色彩や構図は何よりもまして痛ましく感じられる。