ベスト・オブ・B面4曲目

mixi にて大学の先輩たちがB面2曲目について語っていた。
最初に言い出した先輩曰く、
「アルバムのB面2曲目に名曲が入っていると、名盤度アップ」
なるほど、と唸らされた。
それは確かに当たっている。慧眼。


B面2曲目って絶妙なポジションであって、なかなか難しい。
とはいえ、ここに捨て曲を持ってくるようではダメだ。
さらに捨て曲が続いて、ラストだけ「ちょっといい曲」を持ってくるというのもダメだ。
遡って追体験するとアナログの時代のたいがいのアルバムってそうだったような印象がある。
A面はがんばるが、B面の1曲目とラストはなんとかするが、
B面の真ん中は地味なものが多い。
B面2曲目に繋げる意気込み。これは非常に重要だ。
僕は、そう解釈した。


例えば今、中学生の頃より愛読している
渋谷陽一の「ロック ベスト・アルバム・セレクション」の真ん中の辺りを開いてみたら
たまたま出てきたのはストーンズの 「Let It Bleed」で、
B面2曲目は「You Got The Silver」だった。さすがだ。
じゃあビートルズは、と思いページをめくると
「Rubber Soul」のB面2曲目は「Girl」だった。
ボブ・ディランの「追憶のハイウェイ '61」のタイトル曲がB面2曲目だった。
B面2曲目をタイトルに持ってくるなんてすげえなあと
今更ながらディランには感服した。

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B面2曲目は通好み。
もっとわかりやすいところではB面4曲目を僕は挙げたい。
B面4曲目というと、曲数が多かったり少なかったりすると微妙な曲順になるので
ちょっとここはズルをして「最後から2曲目」を指すものとしたい。
「ベスト・オブ・最後から2曲目」は余りにも語呂がよくない。


このポジションも重要ですよね。


そもそも最終曲。
アルバムとはその1枚を通して何かを語っているものであって、
その輪郭や境界線は最終曲を通して浮かび上がる。
物事なんであれ、最初があるのならばいつかは終わりを迎えてしまう。
そのいつか来る終わりへと曲は突き進む、緩やかに歩を進めていく。
いかにしてその最終曲でアルバム全体としての素晴らしいイメージを保つか。
仕上げの箇所なので、そもそも最終曲がしょぼかったら画竜点睛に欠くわけである。


最後から2番目の曲の役割とは、ブリッジ。
いかにしてその最終曲へとつなぐかが問われる。
ここで手を抜いてはならない。急いだり、間を埋めるだけではダメ。
起承転結の「転」と言い換えてもいいかもしれない。


(その意味では、逆の発想としてA面2曲目も重要だ。起承転結の「承」
 A面1曲目の勢いを、開けてみせた扉をいかに次へと繋ぐか)


僕がまっさきに思い出す最後から2曲目は
The Police 「Synchronicity」のまさしくB面4曲目
「Tea in the Sahara」(サハラ砂漠でお茶を)
これですね。
B面1曲目からの
「Every Breath You Take」「King of Pain」「Wrapped Around Your Finger」
というシングルにもなったバラード3連打を受けて、
「Tea in the Sahara」が始まる瞬間。
このアルバムで一番の名曲は「King of Pain」だと僕は思ってるんだけど
(これもB面2曲目だ!)
聞いてて一番ゾクッとするのは「Tea in the Sahara」なんですね。
あの寂寥とした雰囲気。緊迫感のある、夜明けの薄闇と静けさの広がる光景。


最後の「Murder by Numbers」はそんな名曲ではないものの
あのアルバムの最後を締めくくりにはあれ以上の曲はない。
その着地点への「つなぎ」に留まることなく、
それでいて勝手な自己主張もなく、雰囲気を受け渡していく。
「Tea in the Sahara」はB面4曲目というポジションを自覚し、全うしている。
見事としか言いようがない。


ちなみに、「Tea in the Sahara」ってタイトルは
ポール・ボウルズの「シェルタリング・スカイ」から取られていると思う。


その他の有名なアルバムで言ったら、
例えばビーチボーイズの「Pet Sounds」の最後から2曲目は
アルバムタイトルともなったインスト曲「Pet Sounds」
これもまた切ない名曲「Caloline No」へとつながる。


キャロル・キングの「Tapestry」(つづれおり)も
最後から2曲目が表題曲だったりする。


デヴィッド・ボウイの「Ziggy Stardust」だと「Suffragette City 」
その1つ前が「Ziggy Stardust」で最終曲が「Rock 'N' Roll Suicide」
この流れも見事だ。


なお、最後から2番目の曲が実質的なクライマックスで、
最後の曲はおまけというかコーダに当たるようなアルバムもある。
まさに「Ziggy Stardust」がそう。
そういうことを考えたとき、また話は難しくなってくる。
「何を持ってして名盤か?」という話をしだすと
いくらでも尽きないものなのである。