銀座のクラブ

西銀座。とある一角。
夕暮れ時ともなると、ガタイのよさをものすごく高級なスーツに包み込んだ、
まあはっきり言って怖そうな男性たちが
何人か集まっているのに出くわすことが多い。若頭の集まりというか。
地面には黒のドーベルマンが寝そべっている。
犬に詳しくなくとも、毛並みの良さが一目で分かる。
ただ単に寝ているのではなく、狩りに出掛けた際に
ご主人様から指示が与えられるまでじっと伏せて待っている、かのよう。
飢えと上品さの両方を兼ね備えた、本物の目をしている。
小心者の僕は彼らと視線を合わせないようにして無言で通り過ぎる。
大親分がどこかのクラブにてママと会っている」のだろうと思う。
(ここからあくまで想像)
クラブの入ったビルの一室から地上へと降りてくると、
彼ら若い衆を引き連れて停めてある車へと向かう。
とてつもなく大きな黒の高級車。
その後ろ側のシートに深々と沈み込んで、犬の頭をそっと撫でる。
つやつやした漆黒の体毛はきっとビロードのように滑らかなのだろう。


こういう方たちと渡り歩く銀座のママってすごいよな・・・と素直に思う。
どういう人なんだろう?


お客さんのビルがあるので、コリドー街近辺を歩くことが多い。
髪を結って着飾った、貫禄のあるママ(と言っても、もちろん若い)や
まだ駆け出しの「ホステス」の言葉の方がしっくり来る女性たちが
裏通りのビルの間を急ぐように歩いているのをよく見かける。


打ち合わせの合間、この界隈のおしゃれなカフェに入ると
見習いママが一人で、あるいは二人で過ごしていたりするのをよく見かける。
同伴だったり。
昨日も50代の男性を従えた若い女性が店に入ってきて、
男性のやることなすことけたたましく、けちょんけちょんにけなしていた。
(そういうのが好きな男性なのだろう)


打ち合わせが夜遅くに終わって帰るとき、
周りはこういう夜の世界の人たちとその客たちばかり。
酔って賑やかに笑いながらフラフラと。
縁のない僕はすり抜けるようにして通り過ぎる。


こういうのを目にしたとき、銀座って怖いところだなあと思う。
恐怖心の怖さではなく、懐の広いものに出会ったときの怖さ。
深い闇とそのとば口で怪しく瞬いている光。
僕はそういうのを心に思い描く。
並木通りのエルメス、シャネルと高級ブランドの立ち並ぶ表の銀座と、
今僕が書いてきたような裏の銀座。


上京して10年以上になるが、
僕にとって東京で最も不思議な場所は銀座なのかもしれないと思う。
日比谷、有楽町も含めて。
あの一帯が最も得体が知れない。どこまで行っても、未知のまま。