「メタリカ 真実の瞬間」

(今年1番最初に見た映画)


メタリカといえばあのメタリカである。他にメタリカは存在しない。
そのメタリカが新しいアルバムを完成させるまでの
苦難に満ちた道のりを追い続けたドキュメンタリー。
この作品を一言で言ってしまえばそういうことになってしまうんだけど、
いやー、それで終えてしまったら何も伝わらない。
これは面白い!映画として普通に面白い。
昨年見た「メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー」も興味深かったし、
悪魔とダニエル・ジョンストン」もファンならば感涙ものである。
だけどドキュメンタリー映画としての完成度の高さで言ったら
これって最高峰の1つなのかもしれない。
他に並ぶのは U2 の「魂の叫び」と Talking Heads の「Stop Making Sence」だけだと思う。
(僕は「Stop Making Sense」は単なるライブ映像ではなく、ドキュメンタリー映画と捉えている)


97年に7作目の「Reload」を発表後、98年はカバー集「Garage Inc.」
99年はサンフランシスコ交響楽団との共演作「S&M」とリリースは続いたものの
純然たる新作は発表されることのないまま長い空白期間を迎え、
8作目の「St.Anger」がようやく完成し発表されたのは03年。
長すぎるブランク。ファンにとっては余りにも長すぎるブランク。
映画は00年より撮影開始となるのだが、
見てるとバンドを巡る様々な軋轢が次々ひっきりなしに吐き出される。


試しに要約してみる。


・レコーディングを前にして長年活動をともにした
 ベースのジェイソン・ニューステッドが脱退。
 これは友好的な理由によるものではなかった。


・スタジオを押さえてレコーディングを開始するものの
 早々にヴォーカル/ギターのジェームズ・ヘットフィールドと
 ドラムのラーズ・ウルリッヒの音楽的主導権争いとバンド内支配権争いが表面化。
 以後アルバム解散まで形を変えて果てしなく続く。


・毎月4万ドルという待遇で精神分析医を雇い、
 バンド全体とプロデューサーとでグループセラピーを受けることになるが、
 その効果に対して疑念を抱くジェームズ・ヘットフィールドは
 アルコール中毒が悪化してリハビリ施設へ。
 施設を出てからも「家族と過ごす時間を大事にしたい」との理由により
 以後1年間メンバーの前から姿を消す。


・残ったラーズ・ウルリッヒとギターのカーク・ハメットの2人は
 細々とレコーディング作業とセラピーを続けるが何も先に進まない。
 セラピーには活動初期にメタリカを「追い出された」デイヴ・ムステインも参加。
 お互いの長年のしこりを吐き出すも和解には至らず。


(デイヴ・ムステインはメタリカ放逐後、メガデスを結成して全世界的な知名度を得るも、
 常にメタリカの後塵を拝してきた。
 なお、余談であるがメガデスには「ヘビメタさん」や「ROCK FUJIYAMA」で人気者になった
 マーティ・フリードマンも在籍していた)


・無料ダウンロードを著作権の侵害であるとし、ナップスターとの訴訟。
 メタリカはあれだけ全世界で売りまくったというのにまだ金を儲ける気かと
 マイナスの印象を全境のファン・非ファンに対して与えることになる。


・ジェームズ・ヘットフィールドが戻ってくるが、一日にできる作業は4時間だけ。
 その後の時間にプロデューサーのボブ・ロックとラーズ・ウルリッヒ
 録ったテープを聴いてると「俺のいない場で物事を決めようとしている」と
 ジェームズ・ヘットフィールドが激怒する。


・とんでもない時間をかけてようやく、とにかく、完成する。
 新しいベーシスト探し。メタリカが「MTV ICON」に選出されて、事実上のロック殿堂入り。


など、など。
一言でテーマを言うと
「グループとしての意思と個人としての意思はどちらが優先されるべきか?」
ってことになると思う。
余りにも巨大化(もっと正確に言うと肥大化)したモンスター「メタリカ」を
維持すべきために払われる犠牲。それをどこまでメンバーが負うべきか?
メンバーの一人一人の生活はどこまで尊重されるべきか?
その一個人としての意見はどこまで受け入れられるべきか?


フロントマンであるジェームズ・ヘットフィールドが最も真剣にそのことと直面し、傷つく。
それは結果として他のメンバーを傷つけることになる。
そしてそのことがさらに彼を自分という空の中に閉じ込めることになる。
スタジオの中の彼は苦悩の塊でしかないように見える。
若干楽天的なラーズ・ウルリッヒもまた同じように傷つく。
徒労感に襲われ、レコーディングという作業に嫌気が差す。
剥き出しにしたエゴを隠そうとせず、2人は怒りに任せてぶつけ合う。
そういうのの全てが赤裸々に、何のオブラートも無く語られる。


これでアルバムが、それでも出来上がるんだからすごいよな。
よくいろんなバンドのバイオグラフィーにて
長いブランクが空いてその間メンバーの不和が、なんて一言で語られてたりするけど
実際はこういうことが起きてるのか。ここまで具体的な映像は初めて見た。
よくもまあこんな内容を全世界に公開するようになったよなー。
撮影前にGOサインを出して、撮影後にOKを出したってのは
メタリカの各メンバーが大人だったからか。


こういった映像の果てにラストはアルバム発表後のツアー。
様々な困難の末に大勢のファンの前にまた立つことができて、感極まった4人の姿。
これがものすごく説得力がある。
このストレートさが映画の醍醐味そのもので
「いいもの見たなあ」という気持ちにさせる。


このラストの直前、「St.Anger」のビデオクリップ撮影のために刑務所の中で演奏を行う。
ここでジェームズ・ヘットフィールドが語る言葉に重みがあった。引用します。曰く、
「俺も長年怒りという感情を持て余してきた
 世間には怒りの矛先を間違える例が多い
 君らもそうだ
 俺も音楽がなければここへ来ていたか・・・
 来る前に死んでいただろう
 俺は生きていたい

 みんな元は善人だ
 同じサイズの魂を持って生まれてくる
 今日はその魂と交流できて光栄だ」