「硫黄島からの手紙」

昨日の夜、会社帰りに「硫黄島からの手紙」を見に行った。
場内清掃が終わって劇場内に入って席に着いた。鞄を置いてコートを脱いだ。
背後からザワザワした声が聞こえてきて振り向くと
スーツを着た団体がぞろぞろと入ってくるところだった。
「センセイ、座席はこちらになります」と腰の低そうな50代男性がペコペコする。
センセイは映画館という場所に全く馴れていないかのように
座席と座席の狭い間を苦労して進んでいく。そして僕の斜め前の席に座った。
「こちらの列、全てが私たちの席となります」
センセイが真ん中に陣取って、その左隣は奥様と思われる女性。
連れの者たちの間で誰が右隣に座るかでひと悶着起こる。
ペコペコする男性はあっち行けと振り払われ、
懐刀的存在感の秘書と思われる30代前半ぐらいの男性が「失礼します」と横に収まる。
辺りを見回すと僕の座っていた後ろの列のいくつかもその人たちのものだった。
区議会議員とその議会関係者と選挙事務所の集まりという感じだった。


悪い予感がして、それはあっさりと的中する。
最近はやりの座席指定の映画館だったので席を替われない。失敗した。
僕の目の前に座るセンセイは予告編でいびきをかいて寝だした。
さすがに秘書の男性が起こした。センセイは何か不快そうにモゴモゴ言う。
その後映画が始まってもセンセイは辺り憚ることのない声で
秘書の男性にストーリーの状況について説明を求め、
秘書はヒソヒソ声で簡潔に答える、の繰り返し。
気になって仕方がなく、こっちとしては落ち着かない。
後半に差し掛かって、トイレだったのか何事かモゴモゴと宣言した後で
突如立ち上がり外に出ようとする。
隣に座っていたご同行の者がみな立ち上がり、センセイを前に通そうとする。
しばらくしてからまた戻ってきて同じことを繰り返す。
ここはセンセイのホームシアターじゃねえんだよ。
どれほどのお偉いさんのご視察なのか知らんが何様のつもりなのかね?
これだから政治家連中ってのはクソだ。


そんなわけで「硫黄島からの手紙
面白かったです。
毎度毎度のことながらさすがクリント・イーストウッドと唸らざるを得ない。
「よくできてるなあ」の一語に尽きる。
父親たちの星条旗」がフラッシュバックの多様で
手の込んだストーリーとなっているのに対し、「硫黄島からの手紙」は
同じくフラッシュバックが挟まるものの単発のわずかばかりのものでしかなく、
ストーリーも上陸作戦が始まるまでの準備期間と始まってからの死闘を
時間軸に沿ってシンプルに描くだけ。
しかもあの小さな島でその半分は洞窟の中という地味な背景で
2時間以上のドラマのほぼ90%話が展開されるというのに、違和感が何もない。
時間も空間もギュギュッと濃密に濃縮されていて、
無駄がないどころか、多くの物事を伝えてもさらに余りあるものがあった。


この2部作の話を初めて聞いたとき、なんだそりゃ?と思った。
何で今更クリント・イーストウッドが戦争映画を?
しかも日本で撮影??
でも出来上がったものを見たら納得した。
これは撮らずにはいられない映画だ。
この2部作はクリント・イーストウッド
長いフィルモグラフィーの中でも頂点に達するものじゃないかな。
(まあ映画の出来そのもので言ったら
 「許されざるもの」とか他の時期になるんだろうけど)
ここから先、どういう映画を撮るんだろう?
もう70を過ぎた監督なのに、その未来にワクワクさせられる。
これってすごいことだ。


僕個人としては「父親たちの星条旗」の方が好きです。


硫黄島からの手紙」は日本人の脇役の棒読みのセリフがなかったらなあ・・・