モルモン教

僕が高校生の頃、青森市の繁華街で白人の2人組をよく見かけた。
真っ白な半袖のシャツを着て清潔感溢れるナイスガイって感じで、
自転車に乗ってることが多かった。
青森はそんなに国際色豊かな町ではないので外国人の姿を見かけることは少ない。
三沢の米軍基地から観光かなんかで来ているガタイのいいアーミーたち(主に黒人)や
道端にアクセサリーを広げて売っているヒッピー崩れみたいな人たちぐらい。
白人男性の姿はほんと珍しかった。


彼らは何者なのだろう?何をしているのだろう?
休日ともなると必ずどこかしらで見かけた。
英会話学校の教師?そもそもそういう学校ができたという話は聞いたことがない。
高校でも話題になり、事情通の誰かが「実はね・・・」と真相を明かす。
彼らはモルモン教徒だった。
布教活動のために、わざわざ本州最北端の田舎の地青森まで来ていたのだった。


その頃の僕のイメージとして、
「世界まるごと HOW MUCH」に出演していた
ケント・ギルバードケント・デリカットが敬虔なモルモン教徒だと知っていたぐらい。
枕詞に必ず「敬虔な」とつくことから、厳格な戒律のようなものがあるのだと思っていた。
そして僕はユタ州ソルトレイクシティを閉鎖的なコミュニティのように捉えていた。


今もあまりそのイメージは変わらない。
酒もタバコもコーヒーもだめ、もちろん中絶などもってのほか。
清廉な生活を求める人たち。
モルモン教徒の作家オーソン・スコット・カードのSFではない小説のいくつかに
ところどころそういう描写が出て来て、イメージが裏打ちされる。
それが人として当然の生き方であるかのように、
それ以外の生き方が理解しがたい奇妙な習慣であるかのように、扱われている。


青森市の2人組は常にフレンドリーな雰囲気を身にまとっていた。
うっかり目が合えば「ハイ!」と言ってくるぐらいの。
(だから僕みたいな田舎の内気な若者は彼らの姿を目にすると目を伏せた)
「一緒に遊びましょう」との誘いに乗ったツワモノが何人かいて、
彼らがくっついていった先は普通の市民公園。
何事もなくバレーボールをして終わったという。
その後モルモン教の教えを語られることもなかった。ただ普通に交流しただけ。
モルモン教の信者を増やしたいのではなくて、
明るいイメージを広めたかったのだろうなとそのとき考えた。
たぶんそうなのだと思う。


彼らがその後どうなったのかは知らない。
15年経った今もまだ同じような活動を続けている?代々入れ替わって。
大学進学で上京して、夏休みのたびに帰省したが、見かけたかどうか覚えていない。
そもそも高校3年間ずっと見かけていたのか、
それともある年の夏のことだけだったのかもはっきりしない。
雪に閉ざされる冬、彼らの姿を目にした記憶がない。全くない。
さすがに青森の寒さと雪の多さには耐えられなかったのではないかと思う。