ツアーでペルー その30(4月25日)

夜の岸辺


プーノへ。チチカカ湖湖畔の町。
チチカカとはケチュア語で「ピューマの石」を表す。
琵琶湖の実に12倍もの広さ。8562平方キロメートル、湖周415km、標高3809m。
ボリビアと湖を分かち合っている。


バスはプーノの町に入る。
夕暮。雨が降っているので、夕日の沈むチチカカ湖は見れず。
どこかの雑貨屋の壁にコカ・コーラの大きな手書きの看板が
掛けられていたのがなぜか印象に残っている。
そういえば、ペルーではペプシを見かけることはなく、コカ・コーラばかり。
たまたまなのだろうか?それともコカ・コーラがペルーないしは南米に強い?
あるいはペプシがペルーないしは南米に弱い?
あと、どこかで「Coca-Cola Zero」というのを見かけた。
北米や中南米だけの製品?
(今調べてみたらダイエットコークの一種とわかる)


ホテルはチチカカ湖に面した「リベルタドール・イスラ・エステベス
エステベス島の上に建てられている。
道路が敷設されて、プーノとつながっている。
シェラトンもそうだったけど、5つ星のホテル。
シェラトンはどこが??って感じだったけど、こちらは文句なく5つ星。
(何をもってして5つ星とするか僕はよくわかってないけど)
格調ある、落ち着いた、美しいホテル。
僕がこれまでの人生で泊まったホテルの中では最もよかったと思う。
1人部屋も手頃なサイズ。
ああ、何もせずこういうホテルに泊まってゆっくり過ごしたいものだ・・・


コカ茶がフリーだったのでそれを飲みながら宿泊手続きをする。
鍵を受け取って、部屋へ。
夕食までに少しばかり時間が余って、ホテルの中をブラブラする。
ツアーで一緒の女の人にばったり会う。酸素室の場所を知らないかって聞かれる。
フロントに問い合わせるとすぐ隣だという。
高級なホテルなので、具合の悪くなった人用に酸素吸入できる部屋が用意されている。
その人が酸素を吸うと言うので、暇だった僕もベッドの横に座って酸素を吸った。
吸入用のプラスチックのマスクをかけて、
ホテルの人がボンベのバルブをひねって圧力など調整する。
僕の方は圧力が強すぎたのか勢い余った水分がマスクの中でピチャピチャと跳ねた。
吸入は5分。果たして効いたのかどうか。首を傾げる。
効いたようには思えなかった。何も変わらず。
呼吸の仕方がよくなかったのだろうか?
ちゃんと腹式呼吸していたつもりだったんだけど。


ホテルのレストランでビュッフェ。
またか・・・、と思うがここのはなかなかうまかった。
飲み物は白ワインをグラスで。


食べてると病院でもらった薬を抱えたF君が。
僕のスーツケースがF君の部屋の前に届いたと教えてもらう。
食べ終わった後、テーブルで一緒だった人が抜けてF君と2人だけで話す。
このツアーで唯一、個人的なことを話した時間。
どういう選択を経て今この職業についているのか、
将来はどういうことを望んでいるのか、といったこと。
F君の人生は僕の人生と割とよく似ていた。


ツアーの会話ってのは「シャッター押してもらっていいですか?」に始まり、
その時々で見聞きしているもの、味わっているものについて
月並みなな感想を述べ合うという形の表面的なコミュニケーションばかり。
会話の糸口となる質問として、
どこに住んでますか?どんな職業に就いてますか?
これまでどこの国に行ったことありますか?
(ペルーに来るだけあって、たいがいの人は何カ国も回っている。
 最初の海外旅行がペルーって人はそうそういないと思う)
といったような質問をよくする。
食事のときにたまたまテーブルが一緒になった場合など。
答えが返ってきて「ああ、僕もロス行ったことありますよ」
「エジプトは僕もいつか行ってみたいと思ってるんです」
みたいなところから会話が続いていく。
だけどその会話も、あるレベルから先、決して踏み込むことがない。
このツアーが終わったらそれぞれの生活に戻って行って、二度と交わることはない。
それゆえにお互いの人生に深入りするような
立ち入ったことを言ったり聞いたりするとやっかいなことになる。
結果、その旅行を楽しい思い出として保つために、お互い楽しいことしか言おうとしない。
ある種取り繕った言葉となったところで全然構わない。
そんな暗黙のルールがあったように思う。
ツアーの団体とは1人だったり、友人同士だったり、夫婦だったりといった参加単位の
無作為の寄り集まり、偶然の産物であってそれ以上でもそれ以下でもない。
そのときたまたま一緒になって、観光の名の下に淡くて脆い何かを共有しているだけ。
孤独な人は孤独なまま、ツアーを終える。


このツアーがたまたまそうだったと言うだけかもしれない。
同じ旅行会社であっても他の時期のツアーならば
もっと普通に和気あいあいやっていたかもしれない。
いや、ただ単に僕がやはり社交性に欠けるというだけの話なのかもしれない。
人見知りな僕は慣れるまで時間がかかって、
慣れた頃にはツアーが終わってしまっていた。


食事を終えて19時頃だったか。
ここから先、することがなくなる。
雨が上がっていたので、とりあえずホテルの外に出てみる。既に暗くなっている。
チチカカ湖のほとりまで降りて行ってみる。
照明が据え付けられていて、ぼんやりと明るい。
写真を何枚か撮って引き返す。
部屋には上がらず、ラウンジでコカ茶を飲んで過ごす。
ソファーに沈み込んでデジカメの写真を整理していると、
添乗員のKさんから「具合が悪いんですか?」と話しかけられる。
慌てて否定する。


部屋に戻る。
先ほど否定したばかりなのに、実はこの頃体調がかなり悪かった。
動悸がして、頭痛とめまいがする。息苦しさもある。
ここに来て高山病か?
標高3800mと、今回のツアーでは最も高い場所に位置するホテル。
ワインを飲んだせいだろうか。
湖から戻ってくるとき、階段を駆け上がったからだろうか?
HIS から事前にもらった注意事項でも、
クスコやマチュピチュでは症状が出なくて
大丈夫だと思った人が油断してプーノで症状が出ることもある、と書かれていた。
正にそのケースじゃん・・・
具合の悪さに動けなくなり、ベッドに横たわっているうちに眠ってしまう。
目が覚める。
症状によくないと知りつつ、寒気がして浴槽にお湯を入れて入る。
出てきてすぐ眠る。22時頃だっただろうか。


これだけ時間があったら誰かを誘って飲みたいところだったのだが・・・
このツアーは周りに何もないか体調を崩しそうな場所に限って時間があって、
体調がよかったり周りにどこか飲めそうな場所があるときは時間がない。
こんなこともあって、僕はツアーの人たちとそれほど仲良くはならなかった。なれなかった。
飲めば話せても、シラフだと人見知りなままだからね。


とにかく、この日の夜が最も時間があったのに、
僕はこのツアーで唯一の「酒なんて見たくもない!」という時間を過ごしていた。